セクハラ親父を封じ込めた女性のファインプレー(中川淳一郎)

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 現在原稿を書いているのは羽田空港ですが、突然思い出した話があります。作家・椎名誠さんが随分前にエッセイに書いた件なのですが、羽田からタクシーでどこかの電車の駅まで行ってもらうよう伝えた時の話。当時、京急は羽田空港まで通っておらず、羽田へ行く公共交通機関は浜松町発のモノレールしかなかった時代です。

 運転手は「そんなところに行かずもうバーンと小平(椎名氏の家がある市)まで行きましょう、サービスしますぜ!」的なことを言ったそうです。椎名さんは、「サービス」を「かなり安くしてくれる」ことだと解釈し、この運転手のオファーに乗ったのですが、なんとそのサービスとは「運転手によるカラオケを聞かせてもらえる」というもので、割引をしてもらえたわけではない──そんなとんでもないエピソードです。椎名氏は「チクショー!」と思ったことでしょう。しかし、椎名氏はこのエピソードを基にエッセイを書けたので結果オーライでしょう。

 という前置きになりましたが、私がこの前経験した馬鹿話を紹介します。わざわざ東京から佐賀県唐津市まで来た銀行員の女性と、唐津の町おこしを頑張る女性、そして私の妻と居酒屋で飲んでいた時の話です。「マンボウ」のため21時に店は閉めるのですが、20時40分頃にベロンベロンに酔っ払ったオッサン2人が入ってきました。

 我々は楽しく飲んでいたのですが、先輩風のA氏が「よぉよぉ、美人が3人もおるやんけ!」と言い、後輩風のB氏が「やめなさい、やめなさい!」とビートたけしに対するビートきよしみたいなことを言います。

 しかしA氏はその制止を聞かず、我々4人に絡んできます。

「おい、ワシ、チンコ見せてやろうか?」

 とまずは言います。店員は倍賞千恵子似のおかみのみで、男は私一人という状況に。これに対して私は「先輩! チンコは見せないでいいです!」と伝えました。すると「じゃあ、触って」とA氏は言うではありませんか!

 ヤバい状況ですが、ここは私が「先輩! ワシに触らせてください!」とスウェットパンツの上から同氏のまだ硬直していないイチモツを触るしかない。するとA氏は「ワシのチンコは24センチもあるんじゃ!」と自慢する。B氏は「やめなさい、やめなさい!」を続ける。

 そこから先、我々は不本意ながらA氏に対応したのですが、その間、銀行員女性が「先輩、ところでチンコは何センチでしょうか!」と聞いたら、途端にA氏はシュンとして「に、にじゅうさんセンチ」となぜか1センチ短くなったのです!

 これによりA氏に対する我々の評価は甘くなり、「このオッサンは最初、虚勢を張って24センチと言ったけど、サバを読み過ぎたことを反省して1センチ短くしたのかな(笑)」なんて話になったのでした。

 酔っ払いの狼藉は困りものですが、騒動を収めたのは銀行員女性の「はい、解散!」の一言です。そうしたら全員、このバカモードから脱却し、無事アホ珍騒動は終わったのでした。後日、おかみと会ったら「おかげさまで。ありがとうございました」と言われ、イカの塩辛をいただいたのでした。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年3月10日号掲載

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