ウクライナ侵攻を巡る我慢比べ ロシアと米国のどちらが先に音を上げるのか

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米国のホンネ

 一方、国際社会を主導して経済制裁を科している米バイデン大統領は3月1日、一般教書演説を行った。視聴率が最も高い冒頭でウクライナ危機を語り、民主党議員だけでなく、共和党議員からも拍手喝采を受けた。戦時中に大統領の下で米国民が団結する効果が生まれ、バイデン大統領の支持率は8ポイント上昇した。

 ウクライナは4400万人の人口を誇る民主主義国家である。米国はウクライナをユーラシア大陸におけるロシアの影響力を牽制する役目を担うパートナーとして位置づけ、多額の軍事支援を行ってきたが、ロシアが侵攻しても米国は軍を派遣する意向は示していない。

 ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)加盟国ではないことから、米国が守らなければならない義務はない。「米軍を派遣すれば、ロシアとの間で第3次世界大戦が勃発するリスクが生じる」との見解も繰り返しており、「ロシアがウクライナを占領したとしても米国の安全保障にとって脅威にはならない」というのが本音なのだろう。

 米国の3大テレビネットワークがウクライナ情勢を連日のようにトップで伝えていることから米国民の関心が高まっているが、2月下旬の米CNNの世論調査によれば、約6割の米国民が「米国は軍事行動をとるべきではない」と回答している。

 国民が「戦争疲れ」の状況下ではウクライナに米軍を派遣することはできない。

 ロシアのウクライナ侵攻に対峙する手段が限られているバイデン政権は、欧州や日本と連携して史上最大規模の経済制裁を実施しているが、ロシアはウクライナ侵攻を止める気配を見せていない。

 バイデン政権は準備してきた制裁の7~8割を発動済みだと言われているが、前述のCNN調査では6割超の米国民が「米国政府はロシア軍を阻止するためにもっと対策をとるべきだ」と回答している。

 残っている手段で最も強力なのはロシアのエネルギー、特に原油輸出に関する制裁だが、これを発動すると、ロシア経済だけでなく米国を始め世界経済にも悪影響が及ぶ。

 全米のガソリン平均価格は6日、1ガロン=4ドルを上回った。2008年7月以来のことだ。「実施済みの制裁だけでもロシア産原油の輸出に支障が生じる」との観測から原油価格が急騰したことに起因する。

 懸念されていたとおり、「バイデン政権がロシア産原油の輸入制限を検討している」と伝わると米WTI原油先物価格は3月7日に一時、前週末の終値(1バレル=115ドル台)から130ドル台にまで急騰した。

 市場関係者の間では「原油価格は1バレル=200ドルに達する」との予測も出ているが、そうなった場合、ガソリン価格は1ガロン=7ドルに跳ね上がる。

 4日のロイターの世論調査によれば、6割超の米国民が「他の民主主義国家を守るためであれば、ガソリン価格が高くなってもかまわない」と回答しているが、未曾有のガソリン高を甘受できるとは思えない。

 2011年の原油高とは異なり、今回の場合は既にインフレ圧力が強まっている。

 ロシアのウクライナ侵攻以来、「炭鉱のカナリア」にたとえられる(景気後退の予兆とされる)米ジャンク債市場から資金が流出し続けており(3月7日付日本経済新聞)、好調な株式市場が今後暴落するリスクも生じている。

 多くの米国人が家計に不安を覚えれば、バイデン政権は「対岸の火事」に過ぎないウクライナ問題に関わってはいられなくなる。想像するのは悲しいが、ウクライナが米国から見捨てられる日が遠からずやってくるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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