人知れず500万人が苦悩する「便もれ」改善方法 深刻な病気の兆候という可能性も

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筋肉の衰えに注意

 そして石井さんによると、お漏らしの原因としてもっとも多いのは、年を取ることだという。

「私たち医師は“フレイル”と言っていますが、年齢を重ねると身体が衰え、とくに下半身の筋肉が脆弱になり、お漏らししやすくなるといわれているのです」

 大腿筋、大殿筋をはじめ、下半身の大きな筋肉が減り、弱くなると、それにともなって骨盤を支えている骨盤底筋群も弱まる。

「骨盤底筋群は泌尿器や生殖器も支えています。ご高齢になると骨盤底筋だけでなく、肛門括約筋の低下、肛門の感覚低下、直腸の感覚低下など、さまざまな要素が重なり便漏れをしやすい状態になるといえます」

 予防にも治療にも、筋力をつけることが必要だ。

「下半身の筋肉を強くするには運動と食事が大切です。スクワットで大腿筋や大殿筋を鍛えると、骨盤底筋群も刺激されます。良質のたんぱく質中心の食事も心掛けてください。筋肉を増やしてくれます。フレイルの予防と治療には、たんぱく質を補うプロテインのような栄養剤を処方することもあります。筋肉は一度衰えると鍛え直すのは難しいので、ご高齢になって筋力が落ちきる前にできるだけ早く運動とたんぱく質多めの食事を始めていただきたい」

 ここで述べたさまざまな対策を講じても便意に襲われたら――。待ったなしの状態でどう対応するかについても石井さんに聞いた。

「まず、通勤・通学などで頻繁に通る道筋には、便意があったらすぐに飛び込めるトイレを見つけておくべきでしょう。私自身、10代のころは、通学路に“マイ・フェイバリット・トイレ”をリストアップしていました。百貨店の婦人服や化粧品のフロアにある男性用トイレは比較的すいています。ホテルのトイレは、ボックスが多くて清潔です。今は各自治体や各種インターネットアプリが無料トイレのマップを提供しているので、チェックしてはいかがでしょう。トイレを開放しているコンビニも増えているし、ウエルシア薬局のように、店舗のトイレを無料で開放する企業も増えてきました」

「おむつ」の選び方

 ウエルシア薬局は、トイレの心配をせずに買い物ができるように、全店舗にトイレ設備がある(商業施設内の店舗の場合はその施設のトイレ。駅構内の小さな店舗などでは貸し出しできない場合もあり)。

「そのうち1653店舗のトイレはオストメイト対応になっています」

 と広報担当者。オストメイトとは、大腸がんや潰瘍性大腸炎などによってストーマ(人工肛門や人工膀胱)を装着している患者のことをいう。

「オストメイト対応トイレは、排泄物の処理だけではなく、ストーマ周辺の皮膚を洗えて、衣類や器具の洗浄・廃棄もできます。商業施設内の店舗や十分な面積を確保できていない店舗などもありますが、少しずつオストメイト対応トイレを増やしています。どなたでも、通りがかりでも、弊社のトイレを気軽に利用してください」

 ウエルシア薬局は、使い捨ておむつやパッドも豊富にそろえてあるので、その人の症状にあったものを選ぶことができる。

「大人用おむつは素材、サイズがさまざまです。お尻も肌質、サイズが千差万別なので、実際に試して自分に合うものを選んでください」

 とは、前出の商品本部の中田さん。選ぶときのポイントは、次の六つだという。

(1)サイズ

(2)厚さ

(3)吸水性

(4)消臭効果

(5)フィット感

(6)蒸れ感

 さらに、1回の排泄量や頻度を考えておむつを選んでほしいという。

「サイズは、S、M、L、LLとありますが、同じサイズの表記でも、メーカーによって微妙に異なります。最初はいろいろなメーカーのものを手に入れて試してみましょう。どのメーカーも年々質がよくなり、素材は薄くなっています」

 大人用おむつを利用する際に心掛けるのは頻繁な交換、と話すのは石井さんだ。

「ちょっとでもちびったら、交換してください。とくに女性は、尿道炎や膀胱炎のリスクが高いので気を付けてもらえればと思います」

 そんな石井さんが主宰する日本うんこ学会のオフィシャルウェブサイトでは、お漏らしした体験談を募集し、掲載している。

「お漏らししているのは自分だけではないことを知ってもらいたいからです。便意も尿意も誰にでもあり、けっして恥ずかしいことではありません。会議中でも、授業中でも、堂々とトイレに行ける社会になれば、お漏らしは減るはずです」

 お漏らしは人間社会がつくった問題だという。

「つい数百年前まで、人間も牛や馬と同じように、したいときに川や野原で排泄していたはずです。ところが社会の発展で、してはいけない時間が長くなっています。それによってIBSのような病気も生まれました。お漏らしは社会の変化に人間の身体と心が追いついていないことで起きているのかもしれません。日本はこれからますます高齢化が進みます。フレイルが増え、お漏らしも増えるでしょう。お漏らしに対してもっと寛大な社会になってほしい、と私は願っています」

 石井さんの言うように、お漏らしが恥ずかしくない、お漏らしした人に対して誰もがいたわりの心を持つ社会になってほしい。

神舘和典(こうだてかずのり)
うんちジャーナリスト。1962(昭和37)年東京都生まれ。著述家。音楽をはじめ多くの分野で執筆。共著に『うんちの行方』、他に『墓と葬式の見積りをとってみた』『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』など著書多数(いずれも新潮新書)。

週刊新潮 2022年3月3日号掲載

特別読物「人知れず『500万人』が恥ずかしい苦悩 『便もれ』改善大全」より

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