国連に非加盟で台湾の有事はより深刻… それでもウクライナとは絶対的に違う点がある

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台湾とのリンク

 より深刻なのは、プーチン個人に重大な問題が生じている可能性があることだ。ライス元長官は、プーチンは計算高く冷静だったが、いまは違っており、常軌を逸している(erratic)ようで、これまでに目にしたことがないくらいだと述べた。歴史については以前から被害妄想に取り憑かれていたが、ウクライナ誕生をレーニンの責めに帰するに至ったとした。

 共和党の有力上院議員であるマルコ・ルビオ氏も、プーチン個人に問題が生じているとの見立てをツイートしている。ルビオ議員は、プーチンが5年前と同様に反応すると考えるのは間違いだろうとも述べている。

 こうした見方がもし正しければ、さらなる深刻な事態を招きかねない。プーチンがNATOを批判しながら、核抑止部隊に特別警戒態勢を命じたことに十分留意しなければならない。英BBCのモスクワ特派員も、プーチンが核のボタンを押すのかという問いについての記事で、決してないだろうという仮定はもはや当てはまらないとの見立てを示している。

 ウクライナで進行する危機から、我々はどういった教訓が得られるのだろうか。まずは力の空白を決して生んではならないということだ。権威主義体制とそのトップに対して、戦争に訴えることは機会確保の手段ではなく、破滅への道だということを思い知らせなければならない。

 そのために最も重要なのが、抑止力を維持し強化することだ。ドイツのショルツ首相は、国防費を対GDP比で2%以上に引き上げると表明した。ヘルメット5000個をウクライナへの支援としていたショルツ首相が、国防政策の大転換へと舵を切ったのは、冒頭で述べた歴史の転換点にいま我々が立っていることを認識しているからだろう。

 ウクライナと台湾をリンクさせて考える議論も起き始めている。日本国内では安倍晋三元総理が、中国による台湾への対応を占う意味があると述べた。両者は、ロシアと中国という権威主義体制のターゲットとなっているという点では、共通しているといえよう。

 加えて、ロシアと同じく中国も常任理事国であることから、有事の際に侵略側への非難決議を採択しようとしても、拒否権の行使によって、国連安保理は今回と同様に立ち往生してしまうだろう。

 それでもウクライナは、国連大使を通じて国際世論に訴える機会を確保しており、その発言は日本のメディアでも報道されている。一方で台湾は、ウクライナと異なり国連に非加盟であるので、ウクライナのように国連の場で直接訴えかけることは困難だ。有事の際は、アメリカや日本が台湾の立場も代弁しつつ、国連外交を展開することが必要となろう。

 軍事同盟という観点からは、ウクライナと台湾はどのような立場に置かれているのだろうか。ウクライナはNATO加盟を実現する前にロシアによって侵略されて、NATO体制の根幹であり集団的自衛権を規定する北大西洋条約第5条の恩恵に浴することができていない。

 台湾についてはどうか。かつて台湾とアメリカとの間には、米華相互防衛条約が存在していたが、ニクソン政権下での米中国交正常化に伴って、条約は終了し現在に至っている。台湾はいかなる国とも条約上の同盟関係にないという点では、ウクライナと同じ状況に置かれている。

 だが大きく異なるのは、アメリカの国内法としての台湾関係法が存在しているという点だ。同法は1979年の米台断交の直後に、アメリカ連邦議会が主導する形で制定され、現在もアメリカによる台湾政策の根幹をなしている。アメリカによる台湾へのコミットメントの中核が、台湾関係法で規定されているアメリカから台湾への武器売却だ。

 武器売却を通じてアメリカは、台湾の自衛能力の増強を図っており、台湾海峡の平和と安定を保っている。トランプ前政権は11回に上る売却を決定し、同政権の台湾重視のシンボルとなった。2020年8月には、F16戦闘機66機が売却決定の対象となった。ドイツがウクライナへの供与を決定した携帯型地対空ミサイル「スティンガー」についても、2019年7月に250発が売却決定されている。

 北京の指導者に対して、台湾海峡において抑止力が有効に機能していることを常に知らしめ、力による一方的な現状変更を許さないという姿勢をみせ続ける必要がある。アメリカではバイデン政権によって、マレン元統合参謀本部議長をトップとする代表団が台湾に派遣され、蔡英文総統と会談した。ウクライナ危機によっても、台湾への支援に変化はないというメッセージを送る狙いがあるといえよう。

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