ミサイル発射でロシアを支援… 北朝鮮がウクライナ侵攻で得た最大の教訓とは

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「振り子外交」がロシアに傾いた

 日本では、北朝鮮のミサイル発射を「米国の気を引き交渉に持ち込む意図」との分析が一般的だが、これは間違いだと思う。国際情勢の判断違いは、日本の命運にも関わるので、あえて反論しておきたい。北朝鮮は、米朝対話で核放棄する意図はない。核保有国と認定させたいだけだ。

 米国は、対話を呼びかけながらも北朝鮮を「国連安保理決議違反」と激しく批判し、米韓合同軍事演習中止などの北朝鮮の要求に応じる気配はない。

 それでは、今回のミサイル発射の目的は何だったのか。明らかに、ロシア支援だ。北朝鮮の基本的な外交戦略は「振り子外交」だ。今回は、それがロシアに傾いた。北朝鮮は、60年代の激しい中ソ対立の中で、大国の対立を利用し生き抜く外交を身につけた。振り子のように、大国の間を渡り歩き、支援や利益を得る戦略だ。

 ロシアのウクライナ戦争では、米露と中露の間で、ひとまずはロシア支援の立場を取ったのだ。ロシアに恩を売り、支援や軍事技術の獲得を狙った。北朝鮮の核開発やミサイル技術の向上は、ウクライナの技術者を密かにリクルートし、部品を密輸する方法で実現した。

 ウクライナは、旧ソ連時代は軍需産業の中心地で、核保有国だった。核開発とミサイル開発のセンターで、多くの企業や技術者がいた。ウクライナ独立後も、ロシアはミサイルや軍事技術をウクライナから輸入した。ところが、2014年のロシアのクリミア併合でこの関係が崩壊した。

 ロシアへの武器輸出が制限され、ウクライナの軍需産業は倒産や休業に追い込まれた。この事態を利用し、北朝鮮は密かに技術者をリクルートした。ミサイルの機密部品を、密輸入するルートもできた。北朝鮮は、昨年末までのロシアのウクライナ侵攻の情報を入手した。あるいは、ロシアが事前に耳打ちしたのだろう。

 北朝鮮にとって、ウクライナがロシアに支配されれば、核やミサイル技術の入手が難しくなる。ロシアは、北朝鮮への核、ミサイル技術の流出を厳しく取り締まっている。北朝鮮は、ロシアのウクライナ支配を見通し、ロシアに恩を売る戦略に出た。

 それが、年初の11発のミサイル発射だった。しかも最後に発射したのは、中距離核ミサイルだった。米露は、中距離核ミサイル全廃条約(INF)で中距離核ミサイルを廃棄していた。ロシアには中距離核ミサイルがなかったのに、トランプ大統領がこの条約を2019年に破棄したので、製造を再開していた。

 そんな最中の中距離核ミサイルの発射は、ロシア支援の意図が込められ、米国がどう反応するかをテストする機会にもなった。アメリカの反応は弱く、ウクライナに侵攻しても大きな反発はないと、判断した。明らかに、北朝鮮はウクライナ戦争の先兵役を担ったのだ。

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