なぜJR駅から時計が撤去される? 維持費は年間4億円…専門家が解説

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〈鎌倉の方に行く横須賀線は十三番ホームから出る。電気時計は十八時前をさしていた〉

 松本清張の『点と線』にあるように、鉄道駅構内で仰ぎ見るあの時計、正式には電気時計と呼ぶそうだ。これがJR東日本の駅から撤去されつつあるという。

 撤去は「乗客数1日1万人未満の駅」「老朽化が進んでいる時計」「更新時期が近い時計」のいずれかに該当した場合で、昨年11月から作業が始まった。JR東管内1626駅のうち約500駅が対象となり、アナログかデジタルかは問わない。今後10年ほどでそれらの駅から全部、または一部の時計が姿を消す予定だ。JR東の広報によると、

「スマホ等の普及によりお客様がご自身で時間を確認する手段をお持ちであること、メンテナンスの負担軽減等を総合的に勘案して、一部の駅構内の時計の設置を見直すことにしました」

 電気時計はケーブルで給電するため、電池切れの心配はないものの、維持費が泣きどころ。配線を通じて「親時計」と結ばれ、これと同期することで時刻が自動修正される仕組みだが、配線の交換や修理に年間約4億円かかり、実際、JR東は今後の撤去により約3億円の経費削減を見込む。

国鉄らしさがまた一つなくなるかと思うと……

 売上高約1兆8千億円の企業にしては微々たる額とも映るが、鉄道ジャーナリストの梅原淳氏いわく、

「鉄道事業の費用は修繕費や減価償却費など固定費が9割を占め、列車の運行を全面停止してもほぼ経費は変わりません。JR東は2022年度、コロナ禍により鉄道事業で1230億円程度の営業損失が見込まれ、効果的な経費削減策として駅の時計に手をつけざるを得なかったのかと思います。電気時計は仕組みが複雑で、特殊な構造ゆえ維持も難しかったのでしょう。しかし、駅の時計や乗務員の時計は点呼の際に一斉に合わせるものという考え方から抜けられず、他のシステムを考えるまでにいたらなかったのかもしれません」

 かく言う梅原氏には、ある感慨も去来する。

「あの存在は国鉄時代の面影を残しており、国鉄らしさがまた一つなくなるのかと思うと寂しいです」

 他方、鉄道アナリストの川島令三氏は不便さを感じる、と話す。

「私が使う中央線の四方津(しおつ)駅も時計がなくなりました。不便といえば不便です。手持ちのスマホでももちろん時間はわかりますが、いちいち取り出すのは面倒くさい。保守にお金がかからない、簡易な電波時計のようなものを替わりに置いてくれないかなと思います。駅の風情を残しておいてもらいたいな、と」

週刊新潮 2022年2月24日号掲載

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