【韓国大統領選】「選挙カーで中毒死」野党候補一本化を「安哲秀」候補が断念したワケ

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バスの窓をほとんど締めきって

 仮にこの業者が違法改造していたとすれば、死亡事故の責任の所在は、もちろん業者にある。

 とはいえ、そもそも発電機を搭載したバスの使用に、安陣営は誰も疑問を持たなかったのだろうか。

 安候補本人はソウル大学で医学学位を取得し、病院での実務経験まである元医者だ。韓国では現在、新型コロナウイルスのオミクロン株が大流行し、事故後の17日の新規感染者数は10万人を超えた。こんな最中、元医者で大統領候補でもある人物が感染対策を怠り、バスの窓をほとんど締めきっていた状態だったのを承知していたとすれば、危機管理が甘いと批判を受けても仕方ないだろう。

 16日の19時過ぎ、安候補はTwitterに亡くなった2名の冥福を祈る画像を投稿。また、安候補の妻でソウル大学医学部教授の金恵景(キム・ヘギョン)氏が、国民の党関係者との間で「遺族の気持ちを考えるととても心が痛む」「一人で困難に直面している夫にもすまない気持ちだ」と話したとされる内容も報道された。

 韓国民の中には「安候補は事故に巻き込まれた被害者だ」と考え、同情する声は少なくなくない。「心がとても痛い。安候補、元気を出してください」「安候補には再び立ち上がってもらい、最後まで走り抜いてほしい」「選挙活動を中断させることも重要だが、投票日が迫ってきているから頑張って。SNSや他のプラットフォームを活用してでも、積極的に広報してください」といったコメントが寄せられているほどだ。

野党候補一本化案も白紙に

 これらのコメントは彼の支持者から寄せられたもののようだから理解できるが、それ以外のコメントでも、彼の責任について問うコメントはあまり確認できない。

 安候補は16日と17日の選挙運動を中断し、亡くなった2人の葬儀に訪れ弔問した。各メディアが伝える彼の顔には、悲痛な表情が浮かんでいた。

 前述の通り、彼を責める声はあまり見当たらないが、かといってこの悲劇が有利に働くこともなさそうだ。もともと彼が大統領選挙に勝利することはほぼなかったが、これでゼロに近づいたと言えるだろう。尹陣営に持ち掛けてきた「野党候補一本化案」も今月20日の会見で断念すると発表した。この会見で彼は、「この1週間待った。これ以上無意味な時間を過ごすことはしない」と、自身の決断の速さを国民にアピールしたが、尹陣営はそもそも乗り気ではなく、この事故が影響して尹候補の気持ちがさらに離れたと見るムキが大勢だ。

 ダークホースとして大統領候補に急浮上した安哲秀氏だったが、勝利の可能性がなくなるにつれ、話題にすらのぼらなくなるかもしれない。いずれにせよ、投票日が近付くにつれ、失速の一途を辿ることだろう。

羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。

デイリー新潮編集部

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