成田凌「逃亡医F」は賛否両論 リアリティを無視か、ひたすら娯楽性を追求か

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中毒性のある作品

 とはいえ、これらを咎めるのも野暮というものだろう。ドラマのストーリーは例外なく偶然の連続。この作品は偶然の規模が桁違いであるだけなのだ。

 圭介が手術中、時間を計るために聴く音楽が、「さらばシベリア鉄道」(太田裕美、1980年)などの昭和歌謡なのも意味不明。音源はなぜかカセットテープだ。けれど、「説明しろよ」とは思わない。ほかのウソや偶然が突拍子もないからだ。

 逆に、「次はどんなムチャが起きるのだろう」とワクワクしてしまう。中毒性のある作品だ。また、殺人事件、冤罪、難病、難手術など重たいファクタ―を詰め込みながら、観る側をブルーにさせないのは構成や見せ方がうまいからだろう。

 ただし、感動できる可能性はゼロに等しいと思ったほうがいい。涙を浮かべながら観る作品ではない。

 圭介役の成田はハマり役だ。大御所の中島貞夫監督(87)に「ある役柄には抜群に合うという役者が存在する」と教えられたことがある。成田もそう。圭介のような誠実でやさしい男の役が抜群に合う。

 元映画制作者で北海道大大学院教授の阿部嘉昭(63)には「役者のうまい、下手は作品ごとに判断すべき」と説かれた。連ドラに約1年ぶりの登場で、美香子に扮する森はこの役柄が適任に違いない。

 美香子は圭介に左腕切断の危機を救ってもらった後、忠実なる看護助手のような存在になる。ろくに根拠もないのに圭介の無実を信じ、逃走を助ける。やっぱりウソっぽい人物なのだが、童顔で汚れを感じさせない森が演じると、不自然さを忘れる。

 第3話。美香子が客のいない「すずらん珈琲」の留守番をしていた。厨房のステンレス台にアゴを載せ、ウトウト。まるで漫画の一場面だった。この姿がサマになる役者はそういないはず。無邪気に映る森のキャラが象徴されていた。

 死んだと思われていた圭介の恋人・妙子は生きているらしい。第3話の終盤で意識不明の妙子が映し出された。医薬品開発を行うバイオベンチャー企業「バイオネオ」に捕らわれている。脳への薬物送達技術の研究において、妙子が第一人者だったことが、事件に関係しているのか。

 同社の天才薬学者・佐々木世志郎(安田顕、48)が事件に噛んでいるようだ。佐々木は第1話で女性部下の涙をべろりと舐める奇行を見せた。どこまでもウソっぽい作品なのだ。

 弟1話から第3話までの視聴率の平均値は世帯が約8.3%で個人全体が約4.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 これからも壮大なウソとミラクルを超えた偶然が観られることだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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