京都大学前総長・山極壽一が勧める「スマホ・ラマダン」とは 場の共有、自由時間の確保がキーワード

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 人類は共に食事をしたり身体を動かしたりすることで、互いの信頼関係を築き上げてきた。スマホに頼りすぎている現代人は、その身体的コミュ二ケーションを失いつつあるのではないか。ゴリラ研究の第一人者が語る、時にはあえてスマホを断つ“ラマダン”の勧め。【山極壽一/霊長類学者】

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 限られた時間をどのように使うか。それは生き方に関わる問題です。誰にとっても1日は24時間。生命維持に欠かせない睡眠や食事の時間を省くことはできません。さらに仕事や勉強など、ある程度決められたスケジュールをこなせば、自分のためだけに使える時間は1日の中でわずかです。その貴重な時間を、現代人はスマホで消費しきってしまっているのではないか、と懸念しています。

 現代の科学技術の粋を凝らしたスマホは暮らしに欠かせないものとなりました。すぐに人と連絡が取れる。わからないことがあれば即座に調べられる。このように便利な一方で、スマホにはネガティブな側面もあります。進化し続けるテクノロジーと、私たちはどう付き合えばいいのでしょうか。

 誰かと連絡を取るときなど、スマホではメッセージのやり取りを頻繁に行いますが、それは文字や絵などのシンボルを使って行われます。実は、文字や言葉は情報を伝えるのには向いているのですが、感情を伝えるのには不十分なツールです。

言葉だけでは会話が成立しない理由

「こんなに言葉を尽くしているのに、どうして伝わらないんだろう」と思ったことはありませんか。これは、言葉だけでは本心が伝わらなかったり、きめ細やかな感情までは理解しあえなかったりすることが原因です。

 というのも、私たちはふだん、会話の中で相手の表情や仕草、声や態度など、言葉以外の情報をも汲み取りながらコミュニケーションをしています。対面での会話は言葉だけで成り立っているわけではありません。その場の状況のみならず、それぞれの個性や互いの関係性、これまでの経緯などまでをも踏まえて、私たちは話をしています。だからこそ、「あのときのあれ、なんだっけ?」「ああ、あれはね」といった、文字にしてしまえばほとんど意味がないやりとりでも、その場で通じてしまいます。

 一方、スマホのチャットはどうでしょう。そこには文字以外の情報がありません。共有できるものが他にないため、画面に浮かぶ文字だけが強調されてしまいます。発信者と受信者の関係が捨象されてしまい、気持ちが伝わるコミュニケーションにはならないのです。

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