プロ野球“風物詩”の練習に意味があるのか…「キャンプ&自主トレのなぜ」に専門家の答えは?

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課題を明確に、いつそれを克服するか

 昨年パ・リーグのホームラン王に輝いた杉本裕太郎(オリックス)も高島氏のもとで自主トレを行っている選手の1人だ。そんな高島氏が重要視しているのは選手個々の課題にあった練習とトレーニングだという。

「まずはその選手の課題が何かが重要ですよね。例えば、内角が苦手な選手がいて、体幹や胸郭の使い方に問題があればそれを改善するようなトレーニングが必要です。ただ、打ち込んでも解決しません。守備でも同じで、逆シングルの動きに課題があるならそれを繰り返しやることは必要だと思います。だから、うちに来ている選手は、それぞれの課題を明確にして、いつそれを克服するかということを考えながら自主トレをしています。(投手の場合)ある変化球をマスターしようとしても、まだ、感覚的に時間がかかりそうだなとなれば、そのタイミングで短期間に多く投げ込むことは非効率です。ボールの数値がだいぶ良くなっていて、感覚的にもつかめそうという段階だったら、ものにするためにある程度の数を投げるということは有効だと思います」

 選手のスキルアップのためにはもっともな話である。また、最近では球団の垣根を越えて合同自主トレを行っているケースが多いが、実績のない若手がトップ選手から学ぶケースもあれば、逆にトップ選手が若手のできない部分を見て学ぶ部分も大きいという。

 高島氏のもとで自主トレを行っている選手は投手、野手両方にわたるが、普段のシーズン中には一緒に練習する機会が少ないからこそ、投手と野手が合同で行う効果も高いそうだ。しかし、一方で実際にプロのキャンプでそういった個別の取り組みを行う難しさもあるという。

明確な意図を持って数をこなすなら

「会社などの組織でもそうだと思いますが、人数が多くなると個人に注意が行き届きづらくなりますよね。個人メニューの時間を増やす球団も増えてきていますが、どうしても全体練習で同じメニューを消化する時間も長くなります。どうしても上手くいかない選手が出てきた時にどうするかというのは大きな問題ですね。同じ若手だからといって、それぞれ課題は違うわけですから、全員で同じメニューをやっても当然上手くいくケースといかないケースは出てくると思います」

 また、何球投げた、何本走った、何球受けたといった数ばかりにフォーカスが当たることの問題点についても、高島氏は指摘する。

「何か課題があってそれをクリアするために、数をこなすということは当然必要なことだと思います。内角も外角も速いストレートも変化球も対応するために明確な意図を持って数をこなしたという取り組みをしていたら、さすがだなとなりますよね。ただそうではなく、1000本打った、1000本受けたみたいなことだと効果は薄いと思います。逆に、疲れだけが溜まって、良くない形が身についてマイナスにもなる。これはプロに限らず、アマチュアでも特に気をつけるべきことですね」

 キャンプの報道で多くなりがちな、あらゆる“数”だが、その背景にどんな狙いがあるかということが重要ということだろう。選手からもその練習の意図や数をこなした狙いなどが明らかになれば、アマチュアの育成年代にとっても好影響が出てくるはずだ。以前と比べて、キャンプの様子が中継される機会が増え、現地ではなくても、その様子を目にするファンも多くなっている。選手が取り組んでいる練習にはどんな狙いがあるのかについても、是非注目してもらいたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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