東尾修の“大乱闘”に涌井秀章の“報復死球” 球史に残るデッドボール大騒動

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「避ける方向にどこまでもついていくはず」

 一方、東尾に抜かれ、歴代2位となった渡辺は、現役最終登板でわざと通算与死球の日本記録を狙った“仰天エピソード”の持ち主だ。

 82年10月16日の阪神戦、この日まで坂井、米田とともに「143」で並んでいた渡辺は、5回に19年間の現役生活最後のマウンドに上がった。

 先頭打者にぶつけて「さっさとマウンドを降りるつもりだった」が、そんな物騒なことを考えていようとは夢にも知らない阪神の各打者は、打ち取られて引退登板に花を添えようと、明らかなボール球を空振りする。平田勝男は三ゴロ、藤倉一雅も三振に倒れ、たちまち2死になった。

 このまま続投していいものか悩んだ渡辺がベンチを見ると、日本記録挑戦を了解済みの広島・古葉竹識監督が「もう1人行け!」と手で合図してきた。

 次打者は左の吉竹春樹。「カーブを投げれば、避ける方向にどこまでもついていくはずだ」と確信した渡辺は、狙いどおり吉竹の腹に命中させ、歴代単独トップの通算144個目の死球を実現した。

 ベンチに戻ると、ナインが拍手で迎えてくれたが、引退後、広島のスカウトになった渡辺は「そんな名誉ある記録じゃないしね。達成感と同時にどこか複雑な変な気持ちでした。東尾に抜かれたときも何とも思わなかった」と回想していた。

インリン顔負けのM字開脚

 最後は現役投手を紹介する。通算与死球のトップは楽天・涌井秀章の「106」で、歴代15位になる。涌井といえば、西武時代の2010年4月9日のロッテ戦での“報復死球騒動”を思い出すファンも多いはずだ。

 この日の涌井は1回に安打と連続四球で1死満塁のピンチを招くと、大松尚逸、サブローの長短打で3点を失ったあと、代打・神戸拓光にもダメ押し3ランを浴びてしまう。

 2年ぶりの本塁打に大はしゃぎの神戸は、三塁側西武ベンチの前をこれ見よがしのバンザイポーズで何度も飛び跳ねながら通過し、ホームイン後にも一塁側スタンドに向かって、当時の人気グラビアアイドル・インリン顔負けのM字開脚まで披露。さすがに調子に乗り過ぎた感があった。

 はたして、3回1死の2打席目、神戸は涌井から3球続けて内角を攻められた挙句、臀部にぶつけられてしまう。直後、ロッテ・金森栄治コーチが捕手・細川亨に詰め寄ったのを合図に、本塁付近で両軍ナインのもみ合いとなった。

 輪の中心で声を荒げて抗議した西武・渡辺久信監督は「(故意に)狙ってたわけじゃない」と否定したものの、「いきさつは見てればわかるでしょう。あまりにもひど過ぎる」と報復されても仕方のない挑発行為だったことを示唆。ロッテナインの多くも「やっぱり来たな」と半ば冷めているように見えた。

 涌井は与死球率0.37で、東尾とほぼ同じ。これまた17年間という長い現役生活の産物と言えるかもしれない。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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