エッセイスト・安西カオリの人生の相棒は? 自転車が気付かせてくれた都市と町の魅力

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自転車で気付けた東京の町の香り

 日本を代表するイラストレーター・安西水丸氏を父に持つ、エッセイストの安西カオリさん。生まれ故郷の東京を離れ、彼女の人生の相棒となったのは「自転車」だ。二つの車輪と共に出会うさまざまな景色とは。

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 一年中、自転車に乗っている。朝、家を出るとまず駐輪場に行き、自転車に乗るところから一日がスタートする。晴れた日も、雨の日も、雪の日にもスピードを落として運転してきた。

 いま思うと東京の町は坂道が多い。東京で生まれ育ち、それは当たり前のことと思っていた。やがて東京を離れて生活するようになると、平らな道をどこまでも自転車で行くことができると知った。乗る距離も長くなっていった。

 毎日同じ風景を通っていると、季節の移り変わりやわずかな変化が目に留まる。人口20万人ほどの市内にある職場までの道のりには、川沿いに桜並木があった。まだ肌寒い2月のうちから、桜の枝につぼみが毎日少しずつふくらんでいくのが自転車から見えた。田んぼの間を通っていた時は、週明けに稲穂の背がぐんと伸びていて驚いたり、実りの時期を迎えた稲の香りを感じたりしながら走ることもあった。

 長年、車の代わりに自転車に乗っているともいえる。愛車として自分の車を大切にする人がいるように、いつも乗っている自転車が「愛車」である。一時期はマウンテンバイクでダウンヒルを楽しんでいたこともあった。ここ数年は、ストレートハンドルの白いシティサイクルに乗っている。以前の職場が、最寄駅からバスで約10分の距離にあった時に貸し与えられ、退職後そのまま譲り受けたものである。長い期間の勤務なら、バスよりずっとコストダウンにもなる。

 かつて住んでいた東京をしばらくぶりに自転車で走行すると、町の香りを濃厚に感じることがある。以前は当たり前になっていた空気に、よそ者となって触れるとまた新たな発見がある。

 この頃は、レンタサイクルをよく見かけるようになった。公共の交通機関だけでは行きにくい場所もあるのでとても便利である。

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