「三月のパンタシア」みあが語る“永遠の歌姫”は? 失恋後に出会った“むき出しの音楽”

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音楽で初めて泣いたことへの驚きと安堵

 Cocco氏のことはもちろん存じていたのだが、それまではっきりと楽曲に触れたことがなくて、すぐさまネットでいくつかアルバムを注文した。

 届くなりすぐに聴いた。わ、と思った。切羽詰まったように輝く音の粒。心臓を直に揺さぶる歌声。そして「樹海の糸」のサビが胸に流れ込んできたとき、つるんと一粒涙がこぼれた。音楽を聴いて泣いたのは初めてで、そのことへの純粋な驚きと、同時にようやく泣けた、という思いもした。

 その頃、私は当時の恋人と別れたばかりだった。別れの気配は、ずっとあったように思う。青くて幼かった私たちは二人でいる未来より、それぞれの夢を選んだ。

 納得して離れたつもりだった。だが「樹海の糸」という曲が、心のふたをぱかんと開けてしまった。押し留めていたはずの、恋を失った痛みがじわじわ胸を締め付け、気付けばおうおうと泣いていた。悲しくて切ないのに、彼女の歌は、心に絡まる糸をそっと解いてくれるような、痛みをなにか別のものに昇華するような力があった。私は一日中そのアルバムを聴き続けた。

 以来、Cocco氏のむきだしの表現にすっかり魅了され続けている。そして思う。彼女の音楽が、あのときの孤独や痛みを昇華してくれたように、私も音楽や言葉を伝える者として、受け手の心になにか熱く豊かなものを広げたい、と。

 大切なものを手にしたり、失ったりを繰り返しながら私たちは未来を紡いでいる。「樹海の糸」を聴くとそんなことをしんみり考えたりする。

 そうして編み上げた“今”を、私は結構気に入っている。悔しくて眠れない夜もある。まだ満足はしていない。でも、私には私の表現を受け取ってくれる人がいる。私は幸せのありかを知っている。

 音楽を止めて、ソファから立ち上がった。さて、新曲のレコーディングに行ってきます。

みあ
“終わりと始まりの物語を空想する”音楽ユニット「三月のパンタシア」のボーカル。著書に小説『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』。

デイリー新潮編集部

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