女生徒9人が暴行され出産 36歳「加害教師」には“死刑か去勢”のインドネシア事情

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教育現場やネット空間での性犯罪

 こうした前例があるにもかかわらず、女子生徒が被害にあう性犯罪は減らない。女性児童省によると、2021年1月から11月までの間に発生した性犯罪は少なくとも8800件に上っている。しかも今回のヘリー容疑者の事件同様、イスラム寄宿舎や大学など教育現場で教師が加害者になる性犯罪が増えていると、同省は警告している。

 たとえば、2021年に西ジャワ州のタシクマラヤや中部ジャワ州のチラチャップでは、学校の「成績評価」を餌にした教師によるセクハラ事件が起きている。また、コロナ禍でリモートによるオンライン授業が進んだ最近も、インターネットおよびSNSでの性被害が増加している。SNSを介して親しくなった男性から「顔写真や裸の写真を送れ」といわれて興味半分に写真を送り、「写真をネット上に公開してばらまくぞ。嫌なら金を送金しろ。実際に会おう」という恐喝紛いの事例が多いという。首都ジャカルタでは、2021年の1年間に「オンライン上でセクハラや暴力を受けた」という女性や子供からの訴えが489件と、近年で最高に上ったという。

男尊女卑が残るイスラム世界

 こうした性犯罪の背景には、イスラム教における「男尊女卑」の面が影響しているのではないか。

 イスラム原理主義者であるタリバンが実権を掌握したアフガニスタンでは、女性の教育機会、社会活動が厳しく制限されている。身内以外の男性と共に外出することや手首以外の肌を露出することなどが禁止され、違反すれば処罰を受けるなど、女性には過酷な環境となっている。これに比べれば、一部地域(スマトラ島北部アチェ州)を除いて“ゆるい”イスラム国家であるインドネシアだが、それでも「男性の優位性」は社会の各方面に残り、それが利用されている。スマトラ島リアウ州で2021年に起きた、警察官から暴行を受けた女子大生が妊娠し中絶を強要された末に自殺した事件も、そうした弊害のひとつだろう。男性は売春などの婚外性交、婚前性交をなんら問われることなく享受している一方、女性には性に関して厳しい「倫理性」が求められているのが実情だ。

 もっとも、ヘリー容疑者への厳罰が求められている世論もまた、イスラム教ゆえのものだ。多くの国民が死刑を望んでおり、少なくとも去勢は避けられないだろう。裁判の進展、判決の行方に注目が集まっている。

大塚智彦(フリーランスライター)

デイリー新潮編集部

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