M&A仲介大手が業界団体を設立…「社会のためにやっている」は綺麗事と言われるワケ

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両方から手数料を取る「両手取引」

 FAとはフィナンシャルアドバイザリーのことだ。M&AにおけるFAと仲介の違いについて、M&Aを専門とするコンサルタントが説明する。

「FAは企業のフィナンシャルアドバイザリーとして売り手企業か買い手企業のどちらか一方に就きます。依頼主が売り手側であればFAは少しでも高く、少しでも良い条件で買い取ってもらうために買い手側と交渉をしますし、依頼主が買い手側であれば少しでも安く買収できるよう売り手側と交渉をする。成立したら依頼主から報酬を得ます。

 一方の仲介は、売り手企業と買い手企業を仲介するビジネスモデルで、M&Aが成立したら両社から報酬を得る。FAは依頼主にとって最善となるM&Aを目指しますが、仲介企業はM&Aが成立すること自体を目的としています。だから買収価格が実際の企業価値より高かろうが安かろうが何としてでもM&Aを成立させようとする。成立したら両方から手数料を取るので『両手取引』とも言われます。後から問題が噴出して訴訟になるケースもある。実は、FAと仲介は似て非なるものなのです」

「利益相反になる可能性がある」

 仲介のビジネスモデルについて業界が騒然となったのは2020年12月のこと。当時、行政改革担当相だった河野太郎がブログで「双方から手数料を取る仲介は、利益相反になる可能性がある」と問題点をストレートに指摘したからだ。慌てふためいた業界幹部らは「業界団体を立ち上げ、仲介が正当なビジネスであると政界に説明してまわる必要がある」という意見で一致し、協会設立に動き出したのだった。

 利益相反の疑いを払拭するために協会役員に弁護士を入れ、設立会見には中小企業庁事業環境部財政課長を招いて挨拶までさせた。

「弁護士や中小企業庁が仲介ビジネスにお墨付きを与えていることを世に示せた」(大手仲介企業幹部)

 中小企業庁の幹部は苦渋の表情で語る。

「M&A仲介に利益相反の疑いがあることは承知しています。両側から報酬を得る仲介は儲かるし、とくに免許も要らないから新規参入企業が続々と増えている。ただ、日本の後継者問題を解決するためにはM&A仲介企業に動いてもらうしかありません。そのために中小M&Aガイドラインを作ったし、M&A支援機関登録制度も設けました。あくどいM&Aが横行しないよう中小企業庁としてできることはやっているんです」

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