米ファイザー、メルク製には難点も…オミクロン対策の決め手は国産飲み薬の早期実現化

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「飲み薬」の可能性は

 首相は飲み薬についても言及している。昨年12月下旬に承認された米メルク製の飲み薬(モルヌピラビル)は「1万5000の医療機関・薬局が登録し、2万人分を届けている」ことを明らかにした。政府は「160万回分を確保済みだ」としている。モルヌピラビルはヒトの細胞内でウイルスが増殖する際に欠かせないRNAの複製を邪魔する働きをする。オミクロン型にも有効だとされているが、重症化を抑える率は3割程度に過ぎない。胎児に対して先天的な奇形を誘発する可能性も指摘されている。

 モルヌピラビルよりも有望だとされているのは米ファイザー製の「パクスロビド」だ。

 臨床試験(治験)では発症から3~5日以内の患者の入院・死亡リスクを9割近く減らしたとされている。首相は「2月中できるだけ早くの実用化を目指す」と述べた。200万回分を契約済みだとされている。

 パクスロビドはヒトの細胞内でウイルスが増殖する際に必要となる酵素(プロテアーゼ)の合成を阻害する働きをする。モルヌピラビルと同様、オミクロン型にも有効だという。ただし、効果を高めるためにエイズ感染症に使われる抗ウイルス薬を併用することから、消化器系で副作用が生じやすいという難点があるようだ。

 モルヌピラビル、パクスロビドとともに一定量を確保したとされているが、世界中から注文が殺到する状況では予定通りに行かない可能性も排除できない。

 ワクチンと同様、海外の製薬会社が幅を利かせる中で、飲み薬については塩野義製薬がひとり気を吐いている。メルクやファイザーが他の感染症用に開発していた薬を転用したのに対し、塩野義はインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」などを開発した経験を活かして「最低でも5年かかる」とされる飲み薬の化合物を約9カ月で特定した。開発したのはファイザーと同じタイプの薬だ。動物実験ではメルクやファイザーと同等かそれ以上の効果が出たとしている。

 塩野義は昨年9月末から最終段階の治験を開始し、今年3月までに国内で100万人分を生産する計画を立てていた。だが1月5日になって「昨年中を目標としていた開発中の飲み薬の承認申請が遅れている」と発表した。国内でデルタ型の感染者が激減したことで、治験の対象者(無症状者や軽症者、中等症患者を合わせて約2100人)を予定通りに集めることができなかったからだ。政府はオミクロン型の感染者に塩野義の新薬を投与しやすい体制を整えるなどして、最終段階の治験を早期に終了できるよう後押しすべきだ。

 政府は有効性を推定できるデータが集まった段階で使用を認めるようにするなど承認手続きの迅速化を図ろうとしている。感染症の流行時に治療薬やワクチンを緊急承認することができる新たな制度を設けるため、医薬品医療機器法の改正案を通常国会へ提出する。

 オミクロン型の感染拡大による医療崩壊を防ぐためには、全国の薬局に一刻も早く飲み薬が行き渡ることが肝心だ。時間的猶予がない今、国内メーカーの飲み薬の早期実用化は不可欠だと言わざるを得ない。

「拙速は巧遅に勝る」

 暴論かもしれないが、医療崩壊を繰り返さないために、法律改正を待たずに塩野義の新薬を緊急承認するなどの「英断」が必要になってくるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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