「デジタルの牢獄」と化したウイグルの恐ろしい実態…収容所送りにされた少女「メイセム」の証言

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 来月4日、北京冬季五輪が開幕する。ただしアメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダ政府は既に「外交ボイコット」を表明済みだ。その最大の理由に挙がるのが、中国政府による新疆ウイグル自治区への人権弾圧。現地で何が起きているのか。顔認識や音声認識など、最先端技術を駆使した「統治」の実態を長期取材、『AI監獄ウイグル』(新潮社)を上梓した米国人ジャーナリストのジェフリー・ケイン氏が寄稿した。

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 新疆ウイグル自治区で生まれ育ったメイセムは、高校を優秀な成績で卒業、中国の一流大学に進学した。その最中の2014年から、中国政府はウイグル住民に独裁的な魔の手を伸ばすようになる。大量の監視カメラが町中に出現し、ショッピングモールやガソリンスタンドへ入るときにも、IDカードの提示が要るようになった。

 北京で生活するメイセムにとっても、大学生活はつらいものだった。国を動かしているのは漢族であり、「ウイグル人は時代遅れで、過度に信仰心が篤く、少し頭の悪い存在」と見下されていたのだ。教室で挙手しても、教授たちに日常的に無視される。ただしメイセムは努力を惜しまず勉強に励み、トルコの大学院に進む。

「外の世界を見てみたかった」――だがこの選択が、メイセムが海外に住んでいるという事実が、彼女と家族の日常を狂わせることになる。最初の予兆は2016年、夏休みに故郷カシュガルに戻ったときのことだった。

「信用できる」基準を満たしていない

 メイセムの実家の扉を、また親切なガーさんがノックした。家々は10世帯ごとのグループに分けて管理されており、グループ内の住民は互いに監視し合い、訪問者の出入りや友人・家族の日々の行動を記録することを求められている。ガーさんは、10世帯のグループの班長として、最近派遣されてきた礼儀正しい女性だった。

 彼女は、メイセムの家の居間に政府のカメラを設置する必要があると説明した。

「ご不便をおかけしてほんとうに申しわけありません」とガーさんは丁寧に言った。

「でもこの決定については、わたしにはどうすることもできないんです。あなたの家で何か怪しいことが行われている、と地元の警察から通知があったものですから」

 ガーさんから手渡された1枚の紙には、当局の支援を受けて監視カメラを設置する方法が書かれていた。メイセムと家族は、この命令が下された理由をはっきりと認識していた。メイセムは海外に留学中だった。さらに留学先はイスラム教の国だ。そのせいで彼女が“容疑者”とみなされたのだ。2015年のある時点で中国政府は、アフガニスタン、シリア、イラクなどの国が含まれる「26の要注意国」の公式リストにトルコを指定することを決めていた。

「自分は“信用できない”と判断されたんじゃないか、政府はわたしをもう信用していないんじゃないかと不安になりました」

 彼女の直感は正しかった。ガーさんは、政府が定めた「信用できる」の基準をメイセムが満たしていないようだと説明した。カメラを設置して信用できる人間だと示さなくてはいけない、と。

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