【鎌倉殿の13人】初回放送を考察 軽薄でピリッとしない頼朝像が吹き飛んだ瞬間

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三谷脚本おなじみの…

 三谷脚本の売り物の1つである笑いを誘う場面は10カ所以上あった。例えば義時の兄・宗時(片岡愛之助、49)が秘かに頼朝を匿っていた北条家に、応援の武将2人が来た場面。

 登場したのはヒゲ面の豪傑・和田義盛(横田栄司、50)と知勇兼備の畠山重忠(中川大志、23)である。宗時が招いた。

「よっ」(和田)

「何をしているんですか、こんなところで」(義時)

 この時、北条家の母屋では義時の父・時政(坂東彌十郎、65)が京都でのお役目を終えて3年ぶりに帰ってきたことを祝う宴が催されていた。

「あなたの兄上に呼ばれたんです」(畠山)

「頼まれた! 佐殿(頼朝)をお守りしろと!」(和田)

 極秘事項を平然と大声で言われ、義時は狼狽する。

「声が大きいっ…」(義時)

 勇猛な武将だった和田は大の平家嫌いだった。ところが、その理由は小学生レベル。

「オレの知ってる奴で平家とつながりのある奴らは大体イヤな奴だぞぉ」(和田)

 これを聞いた義時はゲンナリ。そりゃそうだ。こんな理屈で清盛と戦うことになり、玉砕したら、目も当てられない。

 この場面に限らず、初回の義時は困ってばかり。まず宗時が頼朝に向かって「義時も源氏再興に努めます」と勝手に約束してしまった。

 宗時以外の北条家の面々もまた義時を困らせた。お尋ね者・頼朝を匿っているという非常事態下にもかかわらず、時政は無責任。姉・政子(小池栄子)と妹・実衣(宮澤エマ、33)はお気楽だった。

 その分、観ている側はおかしかった。常識人の義時が困れば困るほど笑えた。三谷氏が十八番とするシチュエーションコメディである。

 一方、時政が子供たち4人に向かって公家出身のりく(宮沢りえ、48)との再婚を宣言する場面も演劇風で三谷氏らしかった。ここで時政自身ときょうだいのキャラクターを浮かび上がらせた。

「向こうがワシを見初めた。ひと目惚れっていうのは怖ろしいなぁ」(時政)

 大ウソである。自分が口説いた。時政は女性に弱い上、ええかっこしいのところがあった。この性分が後に歴史的事件を引き起こす。

「いささか早くはないですか。母上が亡くなってから、まだ日が経ってません」(義時)

 義時はやっぱり常識人。もっとも、環境の変化によって物語の途中から違ってくる。それが見どころ。

「4人目?」(実衣)

 正しくは3人目の妻。実衣も知らないはずはない。政子は1人目の妻の子で、宗時と義時、自分は2人目の妻が生んだ。シニカルな娘である。

「オレは素晴らしいことだと思う」(宗時)

 宗時は何事もあまり深く考えない。頼朝を匿うことについてもそうだった。

「父上が申し上げたことなら、私たちは何も申しません」(政子)

 政子は家長である時政に従順だった。

 初回は時政役の歌舞伎役者・坂東彌十郎が存在感を示した。池上季実子(62)の祖父で人間国宝だった故・8代目坂東三津五郎さんの弟子の1人である。1歳年上の故・18代目中村勘三郎さんとは盟友だった。うまくて当たり前の人である。

 初回の途中までは困ったオッサンとしか思えない時政を演じながら、終盤では一変。時政のまるで違う面を見せた。攻めてきた祐親との戦いに余裕の表情で臨んだ。

「爺様、いい歳して何をしておられる」(時政)

 終盤の時政は貫禄十分。怖さすらあった。後に鎌倉幕府の初代執権に収まるのも納得だった。

 時代劇も現代劇も所詮は好みだから、いかなるドラマも誉める人がいる一方で、貶す人がいる。ただし、相対的に考えると、この大河の完成度は相当高い。

 最後に、長澤まさみ(34)の語りを批判する向きがあったが、クビを傾げた。ささやくようなウィスパーボイスが「聴き取りにくい」と指摘されたものの、それは意図的に幻想的にしようとしたからだろう。

 舞台となる平安末期から鎌倉前期は歴史学的にまだ分からない点も多い。未知の世界を描くのだから、幻想的な味付けを加味するのは不思議なことではない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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