宇良を襲った悲劇 相撲協会は相次ぐ事故をなぜ放置するのか

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大腿骨は砕け、膝の皿も損傷

 アマチュアではこのような危険がないよう、「土俵際で投げられても土俵上で一回転がれるほど、その分の広さを確保しています」という。それなのに、プロ(大相撲)はいつからの伝統なのか、転がる余裕もない現在の広さを継承し続けている。しかも、観客から見やすいためにか、高さもアマチュアより高く作られている。かなりの段差があるのだ。

 アマチュア相撲の関係者の間では、狭い土俵の危険さは周知の事実というか、ずっと不安視されているという。だが、プロのことゆえ、声を上げることもできない。ある指導者が深刻な顔で話してくれた。

「2年前にも、幕内の友風が大ケガをしました。それなのに、相撲界にはまったく改善する動きがありません」

 友風のケガは、今回のようにもつれた勝負ではなかった。2019年11月の九州場所2日目。琴勇輝に押し出しで敗れ、後退した勢いで土俵下に右脚から落ちたまま動けなくなったのだ。自らの180キロの体重と土俵の高さによる負荷が妙な形で友風の右脚にかかったのだろうか。救急車で病院に運ばれ、検査した結果、以下のような深刻な状態だった。

〈大腿(だいたい)骨は砕け、膝の皿も損傷していた。多くの靱帯(じんたい)や筋肉も切れ、右脚は皮膚と内即靱帯と血管だけがつながっている状態。「もう無理だな」。力士生命は終わったと思った。医師からは、治療に最低2年かかり「歩くことも困難」と言われた。「まず普通の生活に戻れるか。相撲のことを考える余裕はなかった」と振り返る。神経や靱帯、筋肉や骨をつなぐ手術は4度にも及んだ。〉(産経新聞)

迫力たっぷりのシーンだが……

 これほどの大ケガがなぜ起きたのか、日本相撲協会は詳細に調査・検証し、はっきりと改善策を打ち出したのだろうか。

「押し出された後、土俵の上で動きが止まるだけの広さがあれば、友風は土俵下に落ちる必要がなかったし、ケガもしなかったでしょう」と、先の指導者は残念そうに言う。もちろん、自分の身体を支え切れないほど体重が増えすぎている昨今の大相撲の潮流にも問題があるかもしれない。いずれにせよ、いまも同じ、周囲の狭い土俵で取り組みが行われている。

 土俵際でもつれ込み、控えの力士や検査役、時には観客の上に力士がのしかかるように落ちる光景をテレビ中継でも時々見る。迫力たっぷりのシーンだが、相当に危険で、実際にケガをする場合も少ないないと聞く。こうした迫力は、大相撲観戦に不可欠のスリリングな要素として今後も守るべきなのか。それとも、力士と土俵下の人たちを守るため、土俵の周囲を広くする検討がなされるべきか。日本相撲協会と八角理事長にはぜひ検討をしていただきたい。

 両国国技館の土俵は、言うまでもなく「聖地」のような存在だ。だから、アマチュアの最高峰を決める全日本選手権も、わんぱく相撲の全国大会も、この聖地を借りて、プロの土俵で行われる。選手も、そして指導者も父母も、聖地に立てる感激と光栄のため、狭さに不安を洩らしたり、改善を求めたりしないし、できない。だが、国技館の土俵は、聖地でありながら、明らかな危険を宿している。

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