元公安警察官は見た 10年前、駐日シリア大使はなぜ日本を追い出されたのか

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互いにPNG通告

「週末になると、駐日シリア大使館の前には反政府派の在日シリア人が集まりました。その他、民主化運動で独裁政権が代わったチュニジア、エジプト、リビアの人たちも駆け付け、多い時は20人ほどで、プラカードを持ちながらシュプレヒコールを唱えていました。私は万が一の事態に備え、ハバシュ大使とは24時間体制で連絡を取れるようにしていたわけです」

 松本外相は8月19日、ハバシュ大使を外務省に呼び、こう語った。

「アサド大統領はすでに国際社会の信頼を失っており、もはや正統に国を統治することはできず、道を譲るべきものと考える」

 2012年5月30日、外務省は早期の国外退去を求めた。

「外務省から反体制派への弾圧を止めるように言われていたハバシュ大使は、いずれ日本を離れるつもりだったそうです。国外退去を求められた時、私に『大使館のナンバー2が臨時大使になる。私が去った後、よろしく頼む』と言われました」

 シリアは、ハバシュ大使の国外退去を求めたことへの報復措置として6月5日、在シリア日本大使館の鈴木敏郎大使に対して、ウィーン条約で規定されている「好ましからざる人物(ペルソナ・ノン・グラータ=PNG)」を通告した。PNGが通告されると、大使は48時間以内に国外退去しないと大使の身分証明票が無効となり、外交特権を失うことになる。日本の大使がPNGを通告されたのは、これが初めてだった。

 そこで日本政府も同じ日、ハバシュ大使にPNGを通告した。その日のうちに、彼は帰国の途についた。

「他のアラブ諸国で独裁政権が崩壊したのに、アサド政権が今も続いているのは、背後にロシアがいるからです。ロシア(旧ソ連)は1989年のアフガニスタン撤退後、中東を拠点にしています。ロシアはシリアに軍事顧問団を派遣し、人的交流を行っています。2017年に政府軍がサリンなどの化学兵器を使用した時、当時のオバマ大統領が踏み込んだ攻撃をしなかったのは、ロシアの存在があったからです」

 シリア内戦から10年、これまで死者は60万人以上、難民は約660万人にも達している。日本政府は以来、シリアの駐日大使の候補者にアグレマン(承認)を出していない。

デイリー新潮編集部

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