ドイツの電気料金は63%アップ…環境原理主義がもたらす“緑のインフレ”という病

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 欧州が過去最大規模の電力危機に直面する最中、ドイツは昨年12月31日、稼働中の3つの原子力発電所の運転を停止した。残り3つの原子力発電所も今年末までに運転を停止する予定だ。ドイツが「脱原発」に踏み切った背景には2011年の東京電力・福島第1原子力発電所事故がある。ドイツ国内の反対運動に背中を押されたメルケル前首相は、当時17基が稼働していた原子力発電所全てを今年末までに廃止することを決定した。だが当時と現在ではエネルギーを巡る環境が大きく違う。にもかかわらず、ドイツの新連立政権はメルケル氏が敷いた「脱原発」をあくまで墨守する構えだ。

 ドイツの新連立政権は1月3日、「原子力発電と天然ガスを持続可能なエネルギー源として分類する」としたEUの提案について、天然ガスについては「橋渡し技術として当面活用できる」と容認したものの、原子力発電については「脱炭素化に貢献するグリーンな投資対象であるとは認定できない」と拒否した。

 電力価格の高騰に直面してドイツ国内でも原子力発電に対する風当たりは弱まっており、「新政権の方針はあまりにも頑なだ」との批判が出ている。原子力を排除した結果、ドイツが電力価格の高騰に対処できるカードは天然ガスのみとなった。

 ドイツは天然ガスの輸入をロシアに大きく依存しているが、ウクライナを巡る軍事的緊張が暗い影を投げかけている。ドイツはロシアからの天然ガス供給を確実なものにするため、ロシアと直結する海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の建設を進めてきた。ノルドストリーム2は昨年9月に完成し、稼働前の認可手続きに入っていた。

 ロシア側は「ノルドストリーム2が稼働すれば、欧州への天然ガス供給は大幅に拡大できる」と催促しているが、ドイツ政府はロシア側の不備を理由に認可手続きを昨年11月に停止し、稼働開始は今年半ば以降にずれ込む可能性が高まっている。

 ノルドストリーム2について米国は「欧州のロシアへのエネルギー依存が強まる」として反対の立場をとってきたが、ドイツは「ノルドストリーム2はあくまで民間事業だ」として、安全保障問題などと切り離す姿勢を示してきた。新たに就任したべーアボック外相(緑の党)と対談した米ブリンケン国務長官はロシアがウクライナに侵攻すればノルドストリーム2の稼働停止を排除しない」とも述べた。ノルドストリーム2の今後はますます見通せない状況となり、欧州の天然ガス価格への上昇圧力が強まっている。

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