憂鬱な通勤生活が始まる… 究極の2階建て車両もあった「電車の混雑対策」5選

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 正月休みがまもなく終わる。通勤生活が始まることに、憂鬱な読者もいることだろう。だが鉄道事業者も混雑ラッシュに手をこまねいてきたわけではない。

 かつて大都市圏のラッシュ時には、電車の混雑率が200%を超える区間があり、その緩和が課題となっていた。平成に入ると、鉄道事業者は様々な施策を打ち出した。すでに廃車になったものも含め、「電車の混雑対策」の歩みを振り返ってみたい。【岸田法眼/レイルウェイ・ライター】

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(1)多扉車

■ラッシュ時の乗降時間短縮と日中の着席サービス向上を両立した京阪電気鉄道5000系

 混雑緩和策として、導入歴が多いのは多扉車だ。一般的な通勤電車は3ドア車もしくは4ドア車だが、これを5ドア車や6ドア車とすることで乗降時間を短縮し、遅延防止を狙った施策である。

 多扉車の先駆けは、1970年に登場した日本初の5ドア車、京阪電気鉄道(以下、京阪)5000系だ。

 乗降用ドアが多いということは、その分、座席は少なくなる。そこでラッシュ時はすべての乗降用ドアを開閉して乗降時間の短縮に努める一方、日中は2か所の乗降用ドアを締め切り、その上に格納されたロングシートを下ろした。座席数を増やした3ドア車として営業運転したわけである。

■元号が平成に変わると、多扉車が全盛の時代へ

 続いて1990年2月、JR東日本の山手線205系に6ドア車が登場した。京阪5000系と異なり、中間車のみドアが多い仕様だった。平日の朝ラッシュ時にはロングシートを収納し、立席スペースを増やした。さらに乗客がつかまりやすいよう吊り手を大幅に増設し、通路にスタンションポールを設け、安全性の向上にも努めた。ロングシートを収納式にしたことで、荷棚の位置が高くなる欠点はあったが、乗降時間の短縮に成功した。

 その後、JR東日本では横浜線205系、京浜東北線209系、総武線E231系、山手線E231系500番台に受け継がれた。また、山手線205系6ドア車は埼京線に転用され、混雑緩和を図った。

■首都圏でも5ドア車が導入される

 乗降用ドアの開閉で工夫が見られたのが、日本で3番目の多扉車となった営団地下鉄(現・東京メトロ)日比谷線の03系で、1990年9月の増備車(同じ車型の車両を増やすこと。輸送力増強もしくは旧型車両の置き換えが主目的である。なお、車型によっては途中で仕様が変更されることもある)から3年にわたり20編成が導入された。日比谷線はホームの両端に改札方面への階段を配した駅が多いことから、1・2・7・8号車を5ドア車、3~6号車を従来通りの3ドア車とした。

 5ドア車のロングシートは固定式で、北千住や中目黒などの始発駅では、整列乗車を崩さないよう、2・4番ドアを締め切り、1・3・5番ドアのみを開けた。

 当初、日比谷線と相互直通運転を行なう東武鉄道(以下、東武)は伊勢崎線北千住―東武動物公園間の各駅で、5ドア車すべてが開くことに慎重な姿勢を示した。5ドア車が到着すると、整列乗車が乱れることを懸念したからだ。そのため、伊勢崎線内では、2・4番ドアを締め切った「3ドア車」として営業運転に就いていた。のちに東武側が03系5ドア車に準拠した20050系を導入したことで解消された。なお、東武の始発駅では5ドアすべてが開いた。

 このほか、京王帝都電鉄(現・京王電鉄。以下、京王)でも6000系増備車を5ドア車として導入。上記とは異なり、すべての車両が5ドア車である。

■最後の多扉車は東京急行電鉄

 2005年、東京急行電鉄(現・東急電鉄。以下、東急)は田園都市線用の2代目5000系に6ドア車が導入された。朝ラッシュ時の田園都市線の急行や準急を中心に運用され、始発駅―東京メトロ半蔵門線半蔵門間は座席を収納した。車両の構造はJR東日本に準拠する。

 当初は一部の編成を対象に2両連結されたが、のちに3両化して混雑緩和策を強化した。これが最後の多扉車となった。

■ホームドアの設置に伴い2021年で多扉車が全廃

 多扉車は乗降時間の短縮に大きく貢献したが、座席定員が減るほか、乗降用ドアの数が多い分、車内の保温に課題があった。いずれも半自動ドアボタン(乗客のボタン操作により開閉する)が設置されておらず、冬季の長時間停車は暖房をかき消すほど寒かった。

 なにより全廃の決定打となってしまったのは、車両によって乗降用ドアの数が異なることで、ホームの安全柵ならびにホームドアに対応できないことだった。

 まず、京王6000系5ドア車が、2000年1月から3月にかけて、一部を4ドア車に改造した。その後、多扉車ではもっとも早く2011年3月13日をもって引退した。

 JR東日本は2007年の京浜東北線E233系1000番台の導入を皮切りに、6ドア車の4ドア車化を進めた。東急も同様である。東京メトロは日比谷線車両を18メートル車から20メートル車に置き換えることを決め、東武共々4ドアの新型車両に置き換えた。現在はホームドアの設置を進めている。

 最後まで残った京阪5000系も京阪本線京橋駅のホームドア設置に伴い、2021年9月をもって引退。多扉車の歴史は「京阪で始まり、京阪で終わった」ことになる。

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