キヤノン「御手洗冨士夫」は二足の草鞋で失敗 3度目の社長復帰も次のなり手がいないという惨状

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往年の輝きは消滅

 冨士夫は焦っていた。かつて利益のほぼすべては、カメラと事務機(複写機とプリンター)が稼ぎ出していたからだ。

 リーマン・ショックで経営環境は一変した。世界トップシェアを誇ったデジタルカメラはスマホに浸食され売り上げが落ち込んだ。ペーパーレス化の浸透でプリンターの販売も低迷した。

 カメラも事務機も成長力を失った。ビジネスモデルを転換しなければやっていけなくなった。大転換を図らなければならないのに、同郷の人物を社長に据え、自らは会長兼CEOとして最高権力者であり続けた。

 2016年に6600億円という巨額資金を投じて、東芝メディカルシステムズ(現・キヤノンメディカルシステムズ)を買収したことが、危機感の具体的な表れだった。冨士夫はM&A(合併・買収)に1兆円を投じた。

 だが、ビジネスモデルの転換が大きな果実をもたらすところまでは至っていない。

 2019(令和1)年12月期連結決算(米国会計基準)の純利益は10年ぶりの低水準となった。期初に想定した純利益(2400億円)は、18年同期比51%減の1251億円に落ち込んだ。売上高は9%減の3兆5933億円、営業利益は49%減の1746億円だった。売上高営業利益率は4・8%という体たらくぶりだった。売上高は目標に掲げた5兆円にほど遠い水準にまで目減りした。

 かつて営業利益率15%超を叩き出し「エクセレント・カンパニー」と賞賛されたキヤノンの営業利益率は1ケタ台の前半となり、往年の輝きを失った。

冨士夫の“妄執”

 キヤノンは2020(令和2)年5月1日、御手洗冨士夫会長兼最高経営責任者(CEO)が社長を兼務することを決めた。真栄田雅也社長兼最高執行責任者(COO)は「健康上の理由」で退任した。病気の治療に一定期間を要するとして、「真栄田から退任の申し出があり、同日の取締役会で決議した」(キヤノンの幹部)と説明がなされた。

 新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした世界的な逆風のなか、冨士夫は異例ともいえる3度目の社長復帰をした。6代、8代、10代と3度の社長である。カメラと事務機という主力事業から、監視カメラや医療機器といった新規事業への転換を、自らの手で成し遂げたいと考えている。「ここまでくると妄執」(キヤノンの元役員)である。

「世の中は10年単位で大きく変わる」。これが冨士夫の持論であったはずだ。

 今、通用している経営手法は、次の時代にまったく役に立たなくなる。今までとは違った人によって、違った仕組みを作らねばならないと主張してきたのは、ほかならぬ冨士夫自身である。

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