「新春かくし芸大会」はなぜ生き残れなかったのか 1994年に迎えた大きな曲がり角

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「輝く!レコード大賞」(TBS)と「紅白歌合戦」(NHK)が年の瀬に終わった。年始は「新春かくし芸大会」(以下、かくし芸大会、フジテレビ)を見るのがかつての定番だったが、「かくし芸大会」は既に幕を閉じている。どうして消えたのか? それを考察すると、テレビと芸能界の変遷が浮かび上がる(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。

「かくし芸大会」は1964年に始まり、1980年には48.6%という驚異的視聴率を記録した怪物番組だったが、47回目の放送となった2010年に幕を閉じた。その興亡を辿る。

 この番組を企画し、当初は演出も手掛けたのは元フジ社員の故・すぎやまこういち氏である。東京オリンピックの開会式でも使われた「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽をつくる一方、ザ・タイガースの「花の首飾り」(1968年)などヒット曲の数々を作曲した異能の人だ。

「かくし芸大会」は、すぎやま氏と渡辺プロダクションの総帥だった故・渡辺晋氏が親しい間柄だったことから生まれた。2人の関係がなかったら、とても成り立たない番組だった。

「かくし芸大会」が生まれた1964年というと、渡辺プロの全盛期。スターの大半が渡辺プロに所属していたと言っても過言ではない。その協力がなかったら、約100人からそれ以上のタレントたちを集められなかった。

 初回で披露された芸はミッキー・カーチス(83)の「落語」や故・梓みちよさんの「タップダンス」などだが、2人とも所属は渡辺プロ。人気絶頂だったハナ肇とクレージー・キャッツも出演し、番組の華となったが、やはり同プロ。登場したほぼ全員が同プロのタレントだった。

 渡辺プロは出演者を番組に送り出していただけではない。それより大きかったのは「かくし芸大会」を制作し、著作権も持っていたこと。フジは放送権を所持しているだけだった。

 タレントのギャラ、技術費、美術費など制作費の一切を渡辺プロが負担していた。同プロの経済的利益は大きくなかったはずだが、その分、思い通りの番組がつくれた。正月から所属タレントを画面に登場させることが出来た。

 もし、フジが著作権まで持とうとしたら、ギャラが莫大になってしまう。番組はつくれなかっただろう。ギャラが収録当日分だけで済めばいいが、舞踊や中国語劇などの芸の習得には1週間以上かかることも珍しくなかった。

 また、指導者への報酬や稽古場代なども必要だった。無数のタレントたちを抱えていた渡辺プロでないと、つくるのが困難な番組だったのだ。

アイドル時代を迎え…

 1970年代に入ると、芸能プロは群雄割拠の時代に入る。渡辺プロが人気者を独占する時代は終わった。それでもマチャアキこと堺正章(75)、ジュリーこと沢田研二(73)、井上順(74)、中尾ミエ(75)、ザ・ドリフターズ、クレージー・キャッツらがいた。「かくし芸大会」の看板たちは健在だった。また、同プロ系列の芸能プロも番組を支えた。

 続く1980年代の芸能界はアイドルの時代だった。さすがに「かくし芸大会」は渡辺プロ所属者や系列の芸能プロだけではつくれなくなる。

 このため、田原俊彦(60)やシブがき隊などのジャニーズ事務所勢や松田聖子(59)、中森明菜(56)、河合奈保子(58)ら他系列の芸能プロからも出場する。明菜が舞踏を見せたり、河合がマジックを披露したりした。

 だが、その出演交渉は簡単ではなかった。壁となったのは芸の練習時間の長さ。長時間にわたってタレントが拘束されることを歓迎する芸能プロはない。半面、練習を積み、完成度の高い芸を見せるのが「かくし芸大会」の売り物。番組はジレンマに陥っていく。

 一方で1980年代後半になると、別の問題が生じる。子供からお年寄りにまで愛されるタレントが激減してしまったのだ。堺やジュリー、ドリフ、クレージーに続く存在が出てこなかった。

 より正確に言うと、視聴者のタレントの好みが多様化した。世代や個人によって好きなタレントが異なる時代になってしまった。

 これは番組にとって切実な問題だった。「かくし芸大会」は家族向けの番組なのだ。家族全員が知るタレントの芸を、一家そろって観てこそ面白い。この前提が崩れたため、視聴率も落ち始めた。

「レコード大賞」「紅白歌合戦」と通底する問題だった。両番組もやはり1980年代後半から視聴率が落ち始めている。両番組の場合、家族全員が口ずさめるヒット曲の数が少なくなってしまったからである。

 年末・年始の国民的番組を衰退させた一番の理由は国民の多様性だった。だが、多様性が進むのは先進国なら当然のこと。むしろ1つの番組が50%以上の視聴率を得ることのほうが異様だったのである。

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