「夢のがん治療薬」がネイチャー姉妹誌に掲載 ほぼすべてのがんの治療につながる物質を特定

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 国立がん研究センターらが先ごろ発表したがんの10年相対生存率は58.9%。前回調査より0.6ポイント上昇しているが、生存率99.2%の前立腺がんがある一方で、すい臓がんなど難治療がんの生存率は依然として低い。がんは臓器によって、転移しやすかったり、早期発見が困難だったり、性質が異なるのだ。ところが、11月29日、英科学誌「ネイチャー」の姉妹誌「ネイチャー・キャンサー」に、ほぼすべてのがんの治療につながる物質が見つかったという論文が掲載された。物質を特定したのはプリンストン大学のイービン・カン教授らの研究チームだ。

「カン教授は、生物の体内にある『メタドヘリン』という物質を15年以上研究しており、乳がんの転移に深く関わっていることを突き止めていました。しかも、メタドヘリンは乳がん以外にも肺がんや大腸がんなど他のがんでも転移に関与していることが分かってきたのです」(がん研究者)

「がんの守護神」を無効化

 科学ジャーナリストの緑慎也氏によると、

「もし、がんが一つの臓器に留まる病気なら外科的な切除で治ります。しかし、やっかいなのは血管やリンパ管を伝ってさまざまな臓器に転移してしまうことなのです。転移したがん細胞は、そこで増殖すると、さらに他の臓器に移ってゆく。それがあちこちに広がって、最後は身体の機能を奪い、死にいたらしめる。がんによる死の大半は転移や再発を経たものと考えてよいでしょう」

 話をネイチャー・キャンサーの論文に戻すと、カン教授らはマウスを使った実験で、人工的にメタドヘリンを合成できなくしたマウスが、がんになっても転移や再発を起こさないことを確かめた。がん治療のために抗がん剤などの化学物質を使うと、メタドヘリンが化学物質からがん細胞を守ることが知られている。まるで「がんの守護神」みたいな物質だが、

「同誌の論文には、メタドヘリンを無効化する物質を特定することにも成功したとあります」(前出のがん研究者)

 カン教授らは、数年後にはその物質を使った治療薬の治験を開始したいという。がんが死の病でなくなる日は案外近いかもしれない。

週刊新潮 2021年12月16日号掲載

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