「経済安全保障」の時代にいかに対応するか――北村 滋(北村エコノミックセキュリティ代表)【佐藤優の頂上対決】

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「学知」との結合を

佐藤 北村さんは、インテリジェンス・コミュニティから人を集めて、外務省内にCTU-J(国際テロ情報収集ユニット)も作られました。

北村 あれは当時の安倍総理、菅官房長官、杉田和博官房副長官から、強く背中を押していただきましたね。

佐藤 外務省というアンブレラ(傘)の中で、実態は警察中心でやるというのは、いい仕組みです。何か動きがあっても外務省には制圧することはできないわけですから。

北村 警察だけじゃなく、防衛省からも公安調査庁からも来てもらっていますよ。

佐藤 ここはテロ対策だけに限定されたインテリジェンス機関ですね。

北村 はい、カウンター・テロリズムだけです。これを大量破壊兵器拡散とか、経済安全保障の問題まで間口を広げてもいいのではないかとは思っています。

佐藤 私は、これからの日本のインテリジェンスに重要なのは「学知」との結合だと思うんです。日本のアカデミズムは諸外国と比べて政府との距離がありすぎる。しかも補助金を出している日本学術会議の法律部会は特定政党に牛耳られているという有様です。諸外国では、官僚がPh.D.(博士号)を持っているのはごく普通のことです。でも日本では極めて少なく、交流も限定的です。経済安全保障でも、学知との結合はとても重要になってくると思います。

北村 その通りですね。少し別の方向からお話をすると、私は昔、東京大学を管轄する本富士(もとふじ)警察署の署長を務めていたことがあります。当時、東大構内で強姦未遂事件が起きたんですね。我々としては、目撃者の発見のために学内に看板を立てるなど情報を集めたい。でも大学は、学問の自治、大学の自治という観点で、看板の設置を一切認めませんでした。あの時、「学問の自治」とはこういうものかと痛感しましたね。

佐藤 そうした形で外部を拒絶すると、誰がどんな研究をしているかがわからなくなる。また留学生の実態も把握できません。中国は海外から優秀な研究者を集める「千人計画」を組織的に行っていますから、それへの対処も難しくなる。

北村 そのあたりは入管法や担当当局、インテリジェンス・コミュニティが連携して対応するわけですが、かなり改善しつつあるとは思います。

佐藤 ただ外国から見たら、日本は非常に情報収集がやりやすい国です。

北村 日本は、地政学的にかつては冷戦の最前線でしたし、いまは米中対立の最前線です。ですから情報戦の現場になりやすいところに位置しているのは間違いない。しかも制度は民主的ですから、活動がしやすい。そこは我が国のアドバンテージでもあり、ディスアドバンテージでもあるところだと思っています。

佐藤 北村さんは退任後、北村エコノミックセキュリティという会社を設立されました。ご自身は、今後、どんな活動をされていくのですか。

北村 民間企業の経済安全保障に関わる、さまざまな相談に乗っていこうと考えています。

佐藤 米国のオブライエン前大統領補佐官の会社と提携されましたね。

北村 オブライエンさんも同じような仕事をしていますし、米国のマーケットは日本にとって非常に重要です。ですからまずはこの会社を安定させて、さらにユニバーサルなこともできるようにしたいですね。

佐藤 もう官邸には戻られない?

北村 かなり固い意志で会社を設立したのですよ。ただやり始めたら、けっこう大変だった――というのがいまの偽らざる心境ですね(笑)。

北村 滋(きたむらしげる) 北村エコノミックセキュリティ代表
1956年東京生まれ。東京大学法学部卒。80年警察庁入庁。83年仏国立行政学院(ENA)留学。警視庁本富士署長、在フランス大使館一等書記官、徳島県警本部長などを経て2006年安倍内閣総理大臣秘書官。11年野田内閣で内閣情報官となり第4次安倍内閣まで歴代最長の7年8カ月間務める。19年国家安全保障局長、21年退官。著書に『情報と国家』。

週刊新潮 2021年12月9日号掲載

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