「経済安全保障」の時代にいかに対応するか――北村 滋(北村エコノミックセキュリティ代表)【佐藤優の頂上対決】

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日本の情報機関の課題

佐藤 経済安全保障政策を進めるには、日本のインテリジェンス機関をきちんと機能させることが必要です。長らく内閣情報官を務めた北村さんから見て、日本にはどんな課題があると考えておられますか。

北村 安倍内閣のもとで、内閣情報官には量的、質的にかなりの情報が集まるようになりました。ただ情報に対するアクセス権がない。情報提供義務が法的に担保されていないのです。

佐藤 外務省の公電も自動的には届けられませんからね。非常に割り引いた形のものしか行かない。だから重要政策の判断材料となるものが提供されない可能性も出てくる。

北村 第2次安倍政権で新たに設置されたNSSにはそれがあります。だから内調も、その程度の権限を持つことは可能だと思います。

佐藤 ただ提出義務があっても、どこに何があるかわかってないと出てこないということがある。

北村 まあ、それはどこでも起きうることです。それと、現在は特定秘密保護法の施行に関してしか有していない内閣情報官の総合調整権を、情報政策一般に広げることも必要かもしれません。これは、政策と情報の分離の原則を踏まえた上で、各省庁にあるインテリジェンス・コミュニティを統括する仕組みと言い換えていいかもしれません。

佐藤 北村さんは、内調を「室」から「局」に格上げすることを提言されていますね。

北村 政府内で情報収集や分析を行うインテリジェンス機関は、内調のほかに警察、公安調査庁、外務省、経産省などがあります。それらを統括する仕組みを作るなら、内調の権限と組織を改めるしかない。現在、内閣情報官は、内調の長ではありますが、法令上は官房長官などを支えるスタッフにすぎません。

佐藤 つまり内調は独立した機関ではない。

北村 ええ。アメリカでは従来、CIA(中央情報局)が主導的な立場にありましたが、DNI(国家情報長官)が設置され、CIAはもちろん、国防総省などの数多(あまた)の情報機関からの情報も集約し、総合的に分析できるようになりました。オーストラリアでも、インテリジェンス・コミュニティをまとめるONI(国家情報局)ができて、政策決定者とのジャンクチャー(結節点)となっています。世界的な潮流とまではいえませんが、各国でそうした仕組みづくりが進んでいるのです。

佐藤 ただ北村さんの内閣情報官時代に、内調の位置付けはずいぶん変わったと思いますよ。北村さんはプーチン大統領ともトランプ大統領とも会っていますが、それ以外のところで誰か一人を介すれば、どの国の首脳にもメッセージを入れられるネットワークを作られた。

北村 それはどうだかわかりません。今後、情報機関に何らかの手を加えるということになれば、法的担保が不可欠ですし、また民主的統制とセットにするという議論にもなるでしょう。

佐藤 政治家がその組織を監督する形にするわけですね。

北村 いま衆参両議院には、情報監視審査会という委員会があります。ここが特定秘密保護法の濫用を防ぐべく監査をしています。

佐藤 ただ情報監視審査会のメンバーには、破壊活動防止法で公安調査庁が調査対象団体にしている共産党の議員が入ることもありますよね。その点では情報漏洩などの危険もあります。

北村 基本的に国会議員も特定秘密保護法の対象になっていますから、そこは守られるだろうという前提でやっていくしかないですね。

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