オアシズ・大久保佳代子が売れ続ける理由は? 「何者でもない」ことの求心力

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「独身女性芸人は性格が悪い」発言から見るお茶の間感覚 冷静すぎる分析力と燃えたぎる自意識のジレンマ

 いまの視聴者にいちばん近い感覚。それは、「何者でもない」ということを自分で一番理解している客観性と、「だけど売れたい・有名になりたい」という欲の二つである。

「何者でもない」あきらめや焦りが前に出過ぎると、謙遜を通り越して卑屈に見える。かつては大久保さんも、「じゃない方」ゆえの「ひがみ芸人」として振る舞っていた。逆に後者の「有名になりたい」が強すぎると、うっとうしい。場合によっては炎上する言動で注目を集める、厄介なタイプになる。でも大久保さんは、その間の絶妙なバランスを取り続けているのだ。

 先日出演した「グータンヌーボ2」では、「(自分も含め)独身で残っている女芸人、みんな性格が悪い。我が強い」と断言した大久保さん。言葉の裏に見えるのは、冷静な自己分析と燃えたぎる自意識だ。「調子に乗っていると思われてるかもしれないけど、身の程はわかってますよ」という冷めたスタンスと「嫌なヤツと言われても、こだわりを捨てられない」、というジレンマが感じ取れる。

 おそらくプライベートでも、自分がどう相手に評価されているのかをすごく気にしてしまうのではないだろうか。見込みがない人やモノに対しては、時間の無駄とも思ってしまう。でもそれは、評価されたい・愛されたいという執着が強いことの裏返しでもある。何者かになりたい欲は強いのに、傷つきやすく臆病な一面。やっぱり時代の空気を体現した人のように思う。だからこそ共感を集め、無冠なのに大人気の女性芸人、という稀有な立ち位置を確立したのだろう。

盟友・いとうあさこも……無冠ゆえの苦悶が生み出す人間味と魅力

 目立った受賞歴がないが、息の長い活躍を見せる独身女性芸人は他にもいる。盟友・いとうあさこさんや森三中の黒沢かずこさんだ。彼女たちもまた、一般人とは桁違いの爆発力とガッツの奥に、繊細さが見え隠れするのが魅力といえるだろう。

 とはいえ、無冠なのに芸人を名乗ることの中途半端さと苦しさは、大久保さんがいちばんわかっている。最近は「有吉の壁」で、若手に交じって体を張った芸を見せてくれることもある。番組では「エロいOL」をなぞり続け、共演の多い有吉さんも「よくやるなあ」と半ば呆れて合格を出す。マルをもらった後の気恥ずかしげな姿は、とても人間味があって可愛いらしい。だから思う、その気恥ずかしさが漏れ出るまでが大久保さんの芸人としての持ち味なのだと。「エロいOL」ではなく、「恥じらうOL」の醍醐味である。

 受賞歴があるから面白いとは限らない。容姿や年齢、恋愛経験での自虐は古い。毒っ気がなくてもつまらない。お笑い界のスタンダードがコロコロ変わる中で、視聴者と一緒に流され続けてきたのが大久保さんではないだろうか。でもその流され続けた分、共感が積み重なり、何者でもないという空白地帯に踏みとどまることを許されたように思う。

 近年では映画出演などもこなしている大久保さん。悪い意味での「何者でもない」ではなく、何者にもカテゴライズできないという凄みを手にしたといえるのではないだろうか。これだけ「何者かになりたい」という人が彼女の後ろにいる限り、大久保さんの活躍は続くだろう。

冨士海ネコ

デイリー新潮編集部

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