なぜ日本人はデータを使ってコロナを正しく把握できないのか 政府もメディアも“お祭り”に加担

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重症化率を報じないニュース番組は異常

〈なぜ事実に基づかない物の見方が広まってしまうのか。〉

 皆さん、事実にあまり興味がないのでしょう。データで示される事実よりも、皆がどう騒いでいるか、騒ぎ立てることでコミュニティ内がどう盛り上がるかばかりに興味があるように見えます。

 例えば、「重症者数」が報道でよく取り上げられるようになったのは第5波からです。すでにお話ししたように、第5波では死亡者数が第4波に比べて6割になりました。一方、第5波では感染者数が約2.7倍になった分、重症者数も約1.5倍になりました。ワイドショーなどが「減少した死亡者数」ではなく、「増加した重症者数」を取り上げるのは、視聴者を惹きつけるためなのでしょう。そして、情報を受け取る側もそうした“盛り上がり”ばかりに目が行くようになってしまうのです。

 しかし、「重症化率」で比較してみると、第5波のほうが第4波より明らかに低い。これもワクチンの効果です。自治体と医療関係者の方々が懸命にワクチンを打った結果、死亡者数や重症化率が明確に減少しているにもかかわらず、数が増えた「重症者数」ばかり報道していた日本のニュース番組は異常でしたね。

自分たちに有利なエビデンスをなぜか発表しない政府

〈藻谷氏はマスコミだけではなく、政府の対応にも首を傾げる。〉

 ワクチンの効果で死亡者数が減少していることについて、菅前総理はなぜ大々的に発信しなかったのか不思議でなりません。現場の関係者たちが大変な思いをしてワクチンを打っているのだから、ワクチン接種の最高責任者として、「おかげで死亡者が減りました」と発表して称えるべきだったのではないでしょうか。あれだけマスコミを牛耳って、検察も抑え込んで強権を振るおうとしていたのに、良い効果をもたらした事実はなぜか発信しない。これが日本の変なところですね。

 さまざまなデータや分析結果について、政府は把握しているはずなのに、誰もそれを発表しようとしない。自分たちにとって有利となるエビデンスがそこに転がっているのに、誰もそれを利用しようとしない。本当に今回のコロナ騒動に関する政府の動きは「不思議の国・日本」という感じがします。報道機関や国民のみならず、政府までもが「祭り」の盛り上がりに引き寄せられていってしまう。これほど危険なことはありません。

 日本は感染者数、死亡者数ともに低く、感染抑止という観点では圧倒的に欧米諸国をリードしているわけです。厚労省の統計では、コロナ禍の昨年、肺炎が原因で死んだ人は、コロナ関連の死者を含めても一昨年に比べ2万人近く減りました。しかし、そうした事実も全く取り上げられない。それどころか、「経済を回すことにもっと力を入れようよ」などと言うと、周りからつまはじきにされるような雰囲気すらあります。これも「祭り」に気を取られて、データを使って自分の頭で事実を把握しようとしない日本の政府、報道機関、国民の悪いところなのだと思います。

藻谷浩介(もたにこうすけ)
日本総研主席研究員。1964年生まれ。山口県徳山市(現・周南市)出身。日本総合研究所・主席研究員。2000年頃より、地域振興や人口成熟問題に関して精力的に研究、講演を行う。著書に『完本 しなやかな日本列島のつくりかた』(新潮文庫)、『里山資本主義』(角川Oneテーマ21新書)などがある。

週刊新潮 2021年12月9日号掲載

特集「感染拡大・急減の理由が『分からない』? 『コロナ専門家』のおかしさよ」より

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