元公安警察官は見た 産業スパイだったロシア外交官を追いつめた「強制尾行」とは

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大使館から出てこない

 強制尾行で捜査員は、秘匿尾行とは真逆の行動をとるという。

「外交官が大使館を出た瞬間からずっとつけ回します。エレベーターに乗ったら一緒に乗り込み、トイレに入ったら、横に並んで用を足します。パーティー会場に行くのなら、入り口までついて行って、『じゃあここで待っているから』と言って手を振ったりもします。スパイは苛ついてきて『外務省に抗議するぞ!』と言ってきますが、その場合は『どうぞ』と答えますね」

 強制尾行は5、6人のチームで行う。そのうち3人が交代でターゲットの前に姿を現すという。

「毎日のようにそんな尾行していると、詰め寄られて罵られることもあります。そういう時は『あなたとたまたま行く方向が一緒なんだ』と言い返します。掴み合いになることもありますが、警察沙汰になって困るのはスパイの方です。外交特権があるとはいえ、警察沙汰になること自体、彼らの失態になるからです」

 件のロシア人スパイは、強制尾行に対して、どんな反応を示したのだろうか。

「最初は捜査員に抗議していましたが、そのうちいい加減にうんざりしてしまったのか、大使館から出てこなくなりました。そして、1カ月もしないうちにロシアに帰国しました」

 公安部外事1課には、強制尾行するチームは3~4つあるという。

「秘匿尾行チームは絶対に顔が知られてはいけないので、強制尾行をすることはありません。なぜか秘匿尾行チームと強制尾行チームは仲が悪いですね」

 今回紹介した事件のように、企業がスパイの被害にあっても公表されないケースはかなりあるという。

「新聞やテレビのニュースで報道されるスパイ事件は、氷山の一角にすぎないのです」

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部

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