「認知症の発症リスクは40%下げられる」世界的医学誌に論文 専門家が勧める「五感トレーニング」とは

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対策は「長距離走」

 私が実践していることは、いずれも些細なことだと思われるかもしれませんが、それでいいのです。なぜなら、認知症予防は20年、30年継続する「長距離走」だからです。続けられなければ意味がありません。実際、65歳以上の方にとって過度な運動はむしろ健康に悪いといわれています。過度な有酸素運動によって筋肉が分解されて筋肉量が減ってしまい、足元がおぼつかなくなったりして危険な転倒などにつながりかねないからです。転んで頭を打ってしまえば頭部外傷(10)となり、逆にリスク因子を増やしてしまいます。骨折して寝たきりになってしまっては本末転倒です。

 長距離走である認知症予防は、本来は40代から50代で始めることが望ましい。日本人に一番多いアルツハイマー型認知症は、脳の中にアミロイドβタンパクというタンパク質が溜まることで発症します。このアミロイドβタンパクが溜まり始めるのは、認知症発症の20~30年前です。そして、MCIが最も発症しやすいのは65歳から75歳。つまり、遡って考えると40代から認知症予防を始めても全く早くはないのです。

 とはいえ、40代で認知症予防をしようという人はそういないのが現実でしょう。まだ「我が事」として考えにくい。そういう人は、自分が認知症予防を始めることで、その体験を自分の親の認知症予防や、早期発見に役立たせることができると考えるのがいいのではないでしょうか。

 いずれにしても、40代、50代への認知症予防啓発が、高齢化に歯止めがかからない日本にとって、とても重要になってくると思います。アミロイドβタンパクが溜まり始めているという意味では、40代、50代の人にとって認知症は他人事ではなく我が事なのです。もちろん、60代、70代、あるいはそれ以上の高齢者にとっても、三つの習慣を意識することが、認知症予防と症状の進行を遅らせることにつながるのは言うまでもありません。

コロナによる悪影響

 ここまで認知症予防について説明してきましたが、改めてそもそも認知症とは何なのかを考えてみたいと思います。

 私は、認知症とは人間特有の病気であり、人間らしい活動が困難になる病気だと考えています。三つの習慣である知的好奇心やコミュニケーションは、まさに人間の活動を象徴するものです。それが困難になるのが認知症です。「食べる」「寝る」といった本能的、動物的な行動は、意外と最後までできるもの。そうした動物的行動ではなく、人間的活動を充実させることが、そのまま認知症予防対策につながっていくのです。

 とりわけ、コミュニケーションこそが最も人間らしい活動といえると思います。ところが、コロナ禍によりコミュニケーションをはじめ、運動も知的好奇心を向上させることも難しくなっています。この疫禍によって認知症の症状が進行してしまう人が多いのではないかと危惧しています。

 しかし、超高齢社会である日本は「認知症先進国」であると考えることもできます。コロナ禍だからこそ、みんなで些細なことの継続である認知症予防の実績を積み上げ、その成果を世界に発信していければと考えています。

浦上克哉(うらかみかつや)
鳥取大学医学部教授・日本認知症予防学会理事長。1956年生まれ。鳥取大学医学部卒業。同大学の脳神経内科勤務等を経て、2011年に日本認知症予防学会を設立。認知症予防の第一人者として、NHKの「あさイチ」等、多くのメディアに登場している。著書に『今からできる! 認知症を防ぐ五感トレーニング』『科学的に正しい認知症予防講義』などがある。

週刊新潮 2021年12月2日号掲載

特集「世界的医学誌に衝撃論文『認知症』は予防できる 『発症リスク40%減』の『五感トレーニング』と『3つの習慣』」より

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