「認知症の発症リスクは40%下げられる」世界的医学誌に論文 専門家が勧める「五感トレーニング」とは

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リスク因子を排除する三つの習慣

 これらのリスク因子を取り除くことができれば、「40%」を実現できるのです。そしてこの12の因子は、「三つの習慣」に気を配ることで排除が可能になります。それは次の三つです。

A 運動

B 知的好奇心

C コミュニケーション

 Cのコミュニケーションを上手くできれば社会的孤立(2)や抑うつ(3)は改善されますし、Aの適切な運動を行っていれば肥満(8)や足腰の衰えによる頭部外傷(10)を防げるといった具合に、12の因子を減殺できるわけです。

 こうした予防対策は、ついさっき言ったことを忘れてしまうといった記憶障害や、今日が何月何日だか分からない見当識障害などの症状が見られるMCI(軽度認知障害)の人にとりわけ有効です。MCIは、すでに認知症になった人と違い、まだ元に戻れるリバーシブルな状態。しかし同時に、何も対策をとらないでいると認知症を発症する可能性が高くなります。

 MCIになると、例えば「今日はあそこに行って、あれをして……」と計画を立てて行動することに支障が生じるようになります。どこかに行こうとしても忘れてしまい、目的地と反対方向の電車に乗り、2~3時間で済むはずの用事に丸1日かかってしまったという人がよくいます。すると、家にいたほうが楽だということで出不精になる。出掛けなければ外部からの刺激が減り、よりMCIが進行し、ますます出不精になって……という悪循環にはまってしまうのです。

難聴対策が重要

 そうならないためには、やはりMCIやそうなる前の段階で、放置せずにしっかりと予防対策を行い、それ以上の症状に進ませないことが極めて重要です。

 では、三つの習慣に気をつけるにあたり必要なことは何でしょうか。それは五感を衰えさせないことです。例えば、視覚が衰えれば知的好奇心を満たす読書のような趣味はしにくくなってしまいますし、聴覚が衰えれば円滑なコミュニケーションが難しくなります。

 MCIになった時に、最初に衰える五感は何かといえば、意外にも嗅覚です。加齢に伴う嗅覚の衰えにより、嗅神経は記憶を司る海馬や情動を司る扁桃体と繋がっているため、これらへの刺激が少なくなり、その結果、海馬や扁桃体が弱まって記憶障害などが進行してしまうのです。

 嗅覚は、「におい比べ」などによって鍛えることができます。例えば、みかん、ゆず、グレープフルーツの三つの柑橘系果物を用意し、目をつぶった状態で嗅ぎ分ける。これはまだ健常な人が嗅覚の衰えをチェックするのにも適した方法です。また、ローズマリーカンファー(樟脳(しょうのう))やレモンの香りが、認知機能の回復に最も効果があることも分かっています。

 そして、「Lancet」論文で12のリスク因子が明らかにされて以降、現在、認知症予防において最も注目されているのが難聴(聴力低下)対策です。それまで、認知症の専門家の間でも難聴対策はそれほど重要視されていませんでした。実際、聴力は視力に比べて軽視されている印象がありませんか? 人間は感覚の8割を視覚に頼っているといわれています。そのため、視力が低下してくれば眼鏡などで矯正するのが当たり前になっています。

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