「認知症の発症リスクは40%下げられる」世界的医学誌に論文 専門家が勧める「五感トレーニング」とは

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「休める」「使う」

 一方、聴力はどうでしょうか。加齢とともに耳が遠くなるのはごく自然なことであると同時に致し方ないこととして、放置する傾向が強いのではないでしょうか。事実、眼鏡と違い、補聴器はかなり耳が遠くなってからするものという認識が強いように感じます。

 しかし、「Lancet」論文で難聴は12の認知症リスク因子のひとつであることが分かりました。目と同等に、耳の衰えにも気をつける必要があるわけです。聴力の低下は、その現象自体が喜ばしい事態ではありませんが、それに留まらず、三つの習慣のひとつであるコミュニケーションを妨げます。聴力が低下すると人の言葉が聞きとりにくくなるので会話の輪に入りづらくなる。会話が億劫になれば他人との接触も面倒くさくなり社会的孤立に陥る。つまり、12のリスク因子のひとつである難聴(1)が、もうひとつのリスク因子である社会的孤立(2)を招いてしまうのです。したがって、認知症を防ぐためには早め早めに補聴器をつけることをお勧めします。

 このように認知症予防にとって重要な聴力は40代から衰え始めます。まず高音から聞こえづらくなり、60代になるとそれに低音が加わり、生活音も聞こえにくくなってしまう。そして、75歳以上になると約7割の人が難聴になるといわれています。

 このことから分かるように、聴力の衰えを防ぐためには補聴器以前の対策も重要になります。ポイントは耳を「休める」ことと同時に「使う」こと。どちらかだけでなく、両方をともに実践することが大切です。今の若い人たちはイヤホンで大音量の音楽を聴いたりしていますが、これは「耳の将来」を考えると非常に危険だと思います。たまには耳栓をし、完全に音をシャットアウトして耳を休ませることが必要でしょう。

悪口がよく聞き取れる理由

 使うトレーニングとしては、本の音読などが効果的です。自分の声を自分で聞くとともに、口を動かすことでその周りの筋肉を動かす複合的な効果も期待できます。他には、散歩中の音の聞き分けトレーニングも有効です。普段は聞き流してしまう何気ない音を、それが鳥の鳴き声なのか、猫の鳴き声なのかを意識的に聞き分けることで聴力の低下を防ぐことができます。

 ちなみに、耳が遠い高齢者でも、自分の悪口だけはなぜかよく聞き取れるという話をよく聞きませんか? これは気のせいではないと私は思っています。先ほど触れたように、聴力の衰えは高音から始まり、徐々に低音に広がっていきます。そして、悪口はだいたいヒソヒソ声で話すため、声のトーンが低くなる。そのため、高齢者でも低音の悪口が聞こえてしまうのでしょう。

 さて、視覚も聴覚と同じで、休めることと使うことの両方が大切です。テレビやスマートフォンをずっと見て使うだけでなく、遠くのものを見て目を休ませる。また、聴覚と同じように、意識的に見分けることにも効果があります。外出の時に花の色の違いに注意したり、友だちの髪型の変化や服の違いを意識するのもいいでしょう。

 運動、知的好奇心、コミュニケーションという三つの習慣は、聴覚や視覚に頼るところが大きい。つまり、聴覚や視覚が衰えてしまうと、認知症予防対策を始めることさえ難しくなってしまう。したがって、聴覚と視覚のトレーニングは極めて重要なのです。

 私自身も、三つの習慣を意識して生活しています。

 運動する時間はなかなかとれていませんが、例えば目的地の最寄りではなく、少し離れた駐車場に車を駐めてそこから少し歩く。エレベーターやエスカレーターは使わない。知的好奇心とコミュニケーションは、研究や臨床を続けているので何とかなっていますが、その他にはアロマを嗅いだりして嗅覚を衰えさせないようにしています。

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