フランス当局が日本人妻に逮捕状 夫は東京五輪中に「ハンガーストライキ」で“連れ去り被害”を訴えていた

  • ブックマーク

Advertisement

 11月30日、「仏当局、日本女性に逮捕状 両国籍の子連れ去り容疑」というニュースがネット上を駆け巡った。フランス人男性が別居中の日本人妻に「子供を連れ去られた」と訴えている件で、パリの裁判所が、「未成年者拉致の罪」(未成年者略取及び誘拐)と「未成年者を危険にさらした罪」で日本人妻に対して逮捕状を発付したのである。この訴えを起こした男性は、今夏、オリンピック開会式の会場となった東京・千駄ヶ谷の国立競技場前で、3週間のハンガー・ストライキを敢行した在日フランス人のヴィンセント・フィショ氏(39)。今回の動きは日本の司法にどのような影響を与えるのだろうか。(上條まゆみ/ライター)

 ***

3年半、実の子に会えていない

「ようやく希望の光が見えてきたと思っています。ストライキはあまり日本では注目されませんでしたが、フランス当局を動かすことができました。そのニュースが日本でも大きく取り上げられたのですから、やってよかったと思います」

 ニュース配信後に連絡すると、ヴィンセント氏は明るい声でこう語った。

 私が初めてヴィンセント氏と会ったのは、7月10日のことである。場所は、東京オリンピック開催直前で活気づいていたJR千駄ヶ谷駅前であった。

「親が別居や離婚をしても、子どもにとって父も母も親であることは変わりがないはず。それなのに、親子が片方の親によって一方的に引き離されている状態は、子どもの権利を侵害している。どうか子どもの権利を守ってほしい」

 ヴィンセント氏はこう訴え、国立競技場を見据える駅構内に幟を立ててハンガーストライキを開始した。

 2006年に来日したヴィンセント氏は、09年に日本人妻と結婚。その後、2人の子どもができた。だが、価値観の違いなどから夫婦間に亀裂が入り、18年8月に、妻は彼に無断で、当時3歳と11か月歳の子どもを連れて家を出て行ってしまった。それ以降、彼は子どもと会えていない。

 親なのに実の子どもに会うことも許されない。なぜこのようなことが起きるかというと、日本独特の親権制度があるからだ。日本では、両親が離婚した場合の共同親権は法的に認められていない。別居をした場合も、実質的には別居親は親権がないのとほぼ同様の扱いになる。そのため調停で、子どもの監護者指定を巡る話し合いがもたれたが、連れ去りによって妻が子どもの監護を行っている現状を裁判所が重視し、子どもの監護者は妻に指定されてしまったのである。妻はヴィンセント氏に子どもを会わせることを拒否しており、現在は離婚裁判で両者は親権を巡って争っている。

決死のハンストを無視した日本のメディア

 ヴィンセント氏は、子どもに再会できるまでハンガー・ストライキを続けるつもりだった。しかし、栄養失調によるふらつきから転倒して右手小指を骨折。手術を余儀なくされ、7月31日に中止した。

 11月24日、およそ4カ月ぶりにインタビューの場に現れたヴィンセント氏は、ハンガーストライキ中に比べると、少し頬がふっくらとして健康そうに見えた。81キロあった体重は一時64キロにまで減ってしまったというが、現在は75キロくらいまで戻ったという。手術をした小指には治療用チタンが入ったままで、もう曲げることはできないが、特に不自由はない。

 しかし、心の中はズタボロだった。持ち家も売り、勤めていた野村證券も退職して、決死の覚悟でハンガーストライキに挑んだが、子どもに会うことは叶わなかった。

「ハンガーストライキは、残念ながら日本にはゼロ・インパクトだったと認めざるを得ない」と、ヴィンセント氏は肩を落としていた。

 事実、ヴィンセント氏のハンガーストライキは、フランスをはじめとした海外メディアには大きく取り上げられたが、日本のメディアでは「デイリー新潮」や一部月刊誌が報道したくらい。それどころか、彼について書かれた記事のうちの一つは、彼の主張だけで相手方の主張が併記されていないとの理由で削除されてしまった。また、相手方に意見表明の機会を設けたメディアもコメントを拒否されたため、掲載に至らないケースもあった。

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。