岸田首相は早くもリベラル色全開 安倍元首相が避けてきた”事実上の移民政策”で波紋

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「移民政策ではない」

 時計の針を少し戻そう。2019年4月、安倍政権は深刻な人手不足に対応するため業種14分野での在留資格「特定技能」を新設した。在留期間の上限が通算5年で期間限定の就労となる「特定技能1号」は家族の帯同は認められていないが、熟練した技能をもつ「特定技能2号」は長期滞在や家族帯同が可能で、対象を建設と造船・船用工業の2分野に限定してきた。保守派の代表格である安倍氏が「移民政策」に神経をとがらせている自民党支持層に配慮し、「ナローパス(狭き道)」を選択した結果だった。

 外国人労働者の受け入れ拡大について、当時の安倍首相は2018年10月29日の衆院本会議で「深刻な人手不足に対応するため、真に必要な業種に限り、一定の専門性技能を有し、即戦力となる外国人材を期限を付して我が国に受け入れようとするものだ」と説明。同年12月10日の記者会見では「今回の制度は移民政策ではないと申し上げてきました。受け入れる人数には明確に上限を設けます。そして、期間を限定します。皆様が心配されているような、いわゆる移民政策ではありません」と述べている。

 だが、その安倍氏が「キングメーカー」として支える岸田首相は、特定技能制度の新設から3年も経たずして方針転換を図る構えを見せているのだ。

 11月18日付の日経新聞朝刊は1面トップで「外国人就労『無期限』に 入管庁検討 熟練者対象、農業など全分野 受け入れ拡大へ転換」と報道。在留期間に上限がない建設と造船・船用工業の2分野に加え、別制度での長期就労が可能な介護を除く11分野を「特定技能2号」に追加し、「特定技能の対象業種14分野すべてで『無期限』の労働環境が整う」と報じた。

 朝日新聞も翌19日付の朝刊で「『特定技能2号』の拡大検討 長期在留可能な外国人労働者 政府」と報じ、「来春の正式決定を目指し、関係省庁で調整が進められている」としている。

 松野博一官房長官は11月18日の記者会見で「期間ごとに更新を認めるものであり、無期限の在留を認めるものではない。また、無条件に永住を可能とするものではない」と説明したものの、政府内で特定技能2号の対象拡大について検討していることは認めた。

 出入国在留管理庁によると、特定技能の在留資格で在留する外国人は2021年9月末時点で3万8337人。ベトナムが2万3972人で最も多く、フィリピンが3591人、中国は3194人と続く。80万人を超える永住者と比べれば少ないように見えるが、昨年9月末の8769人から1年間で約3万人も増えている。ちなみに、更新が可能な特定技能2号では在留10年で永住権取得も可能になるという。

 自民党の保守派議員は「安倍政権時代は『移民政策ではない』と断言していた。その時の説明を岸田首相になったからといって勝手に変えることは許されない。断固反対する」と早くも怒りを抑えられない様子。だが、当の岸田首相は「議論があるのは良い。聞くべき話も聞く。でも、最後は自分が決める」(周辺)とのスタンスで臨む考えだという。

 池田勇人元首相が1957年に創設した宏池会から約30年ぶりに誕生した宰相。岸田氏は自著『岸田ビジョン 分断から協調へ』でこのように説明している。「私たち宏池会は結成されてから今日まで、その名の通り、リベラルで自由な社会を目指し、権力には謙虚に向き合ってきました」。そして、最も大切にしていることは「徹底した現実主義」であるともつづっている。

 自民党内や保守層の反発がにじむ中、岸田氏が見る「現実」はどのようなものになるのか。その行方が来夏の参院選に影響することを懸念する声は広がりつつある。

小倉健一(おぐら・けんいち)
イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒。国会議員秘書からプレジデント社入社。プレジデント編集長を経て2021年7月に独立。

デイリー新潮編集部

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