彭帥問題で中国当局の肩を持つIOC「バッハ会長」 歴史を動かす危険な一歩か

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 安否が心配されていた中国の女子プロテニス選手・彭帥さんの無事を伝える動画が次々に公表される中、21日にはIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長が彭帥さんと約30分にわたって「ビデオ通話を行った」とのニュースが写真付きで報じられた。

 中国側もIOCも「これで彭帥選手の安全と自由は証明できた」として、広がりを見せていた北京五輪外交ボイコットなどの動きを牽制した。

 しかし、両者の思惑とは裏腹に、中国当局への疑念がこれで解消したとは言い難い。むしろ、それまで静観の構えだったIOCのバッハ会長の唐突な登場で、中国とIOCの蜜月ぶりが強烈にアピールされ、かえって火種を大きくしたとも言えるだろう。

 報道されたのはバッハ会長が画面に映る彭帥選手と話している静止画だけで、肉声は公開されていない。しかも、10年以上におよぶ海外プロサーキット生活で英会話は十分にできるはずの彭帥選手になぜ通訳が必要だったのか? 通訳がバッハ会長に伝えた言葉は本当に彭帥さんの本心だったのかなど、各分野の専門家が様々な指摘をしている。むしろ謎は深まった感が強い。

 会談にはバッハ会長と彭帥選手のほか、IOCアスリート委員長のエマ・テルホ氏と、通訳も務めた中国の元バドミントン選手でIOC委員の李玲蔚(リ・リンウェイ)氏の計4人が参加したという。李玲蔚さんは「彭帥選手の友人」と紹介されていたから、なんとなく和やかな印象を受けるが、「ただの親しい友人」ではない。彼女は中国で最初のバドミントン世界チャンピオンで、いわばレジェンドのひとり。同時に、2008年北京五輪の成功に向け、国際連絡部副大臣を務めた。2012年にIOC委員に選ばれただけでなく、2013年の第12回全国人民代表大会(全人代)常任委員会委員、2015年には党委員会書記に就任、といった顔を持つ人物だ。つまり、中国当局側の人である。

 IOCと中国、どちらがこの会談を持ちかけたかは不明だが、いずれにせよIOCと中国は共同で、彭帥選手の自由と安全を世界にアピールし、北京冬季五輪開催になんら懸念がないことを強調した格好だ。

 新たな火種と書いたのはまさにこの点だ。

 アメリカのバイデン大統領が「外交ボイコット」を示唆し、イギリスなど多くの国が同様の態度を表明している。WTA(女子テニス連盟)は彭帥選手の安否確認を強く求め、人権を蹂躙する中国の姿勢が変わらなければ「中国からの事業撤退も検討する」(スティーブ・サイモンCEO)と一貫して強い姿勢で改善を求めている。ジョコビッチ選手や大坂なおみ選手らも、彭帥選手の安否確認と自由を求める声を上げている。

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