【カムカムエヴリバディ】朝ドラ史上、類を見ない早い展開でも視聴者が満足する仕掛けとは?

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 NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(月~土曜午前8時)に心をわしづかみにされる人が続出している。朝ドラ史上、類を見ない猛スピードで物語が展開しているのにどうしてなのか。

「カムカムエヴリバディ」についてSNS上にはこんな声が並んでいる。
「1話たりとも見逃せない」「どっぷりハマった」

 放送開始から僅か4週間で数多くの熱狂的ファンを獲得したようだ。

 朝ドラ史上、最速と言っていい猛スピードで物語が展開しながら、物足りないという声は聞こえてこない。
 それどころか多くの視聴者を朝から泣かせるほど強いインパクトを与え続けている。なぜなのか。

 理由の1つはヒロイン・安子(上白石萌音、23)の人生が、誰にでも当てはまる摂理に基づいて描かれているからだろう。

 その摂理は「禍福はあざなえる縄のごとし」。もとは司馬遷の『史記』「南越伝」に書かれている言葉で、幸福と不幸は縄をより合わせたように交互にやって来る、という意味である。

 安子が幸せを掴み、観る側まで幸福な気分に浸った途端、その幸せが安子の手からこぼれ落ちてしまう。
 安子が笑顔を見せたと思った次の瞬間、その表情が陰る。観る側も切なくなる。

 禍福が交互にやってくるという展開が最も際立っていたのは、安子が我が子の誕生を喜んだ直後に訪れた肉親の死だ。

 第16話。結婚して約1カ月の夫・雉真稔(松村北斗、26)は出征してしまうものの、安子は子供を授かり、長女・るいを生む。1944年9月14日のことだった。

 当初は結婚に猛反対していた稔の父・千吉(段田安則、64)と母・美都里(YOU、57)は初孫誕生に小躍り。安子も幸せをかみしめた。戦時下の雉真家が喜びに包まれる。

 第17話の安子はるいを連れて里帰り。母・小しず(西田尚美、51)、祖母・ひさ(鷲尾真知子、72)、父・金太(甲本雅裕、56)はそろって相好を崩す。会話も弾んだ。

「あげん楽しそうなおばあちゃん見るの、久しぶりじゃ」(小しず)

 安子が帰途に就く際、ひさはるいに向かって「また来られいよ」と目尻を下げる。

 だが、その日は永遠に来なかった。直後に小しずとひさは空襲で命を落とす――。

 まさに「禍福はあざなえる縄のごとし」だった。誰でも人生のハイライトは幸せだった時期と不幸せだったころに違いないが、この朝ドラは安子のそれを中心に描いているから、緩慢な場面がない。観る側に強い印象を与える。

 安子の物語は落差が激しいものの、それでいてリアリティを感じさせるのは現代人にも安子の生涯と共通するところがあるからだろう。それは幸福と不幸が交互に訪れがちな点だ。

 そもそもこの朝ドラのリアリティは折り紙付き。NHKドラマだけでも60作以上担当している考証のプロ・天野隆子さんが徹底して行っており、小しずとひさの命を奪った空襲も史実に基づいている。

 1945年6月29日から午前2時43分からの岡山大空襲である。米軍機B29による無差別爆撃が2時間近くも続いた。死者は1700人以上。市内の約7割が焼き尽くされた。

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