【カムカムエヴリバディ】朝ドラ史上、類を見ない早い展開でも視聴者が満足する仕掛けとは?

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幸不幸の連続

 序盤における安子の禍福も振り返りたい。第3話。岡山市内にある家業の和菓子店「たちばな」を手伝っていた安子は、店に来た大阪商科大予科(現・大阪市立大)に通う稔と知り合う。そしてラジオの英語講座の存在を教えてもらった。

 第4話。安子は稔から自転車の乗り方を指導してもらう。おそるおそる自転車にまたがるが、表情はこぼれんばかりの笑顔。2人で喫茶店「Dippermouth Blues」にも入る。

 第5話で2人は地元の祭りへ。安子は幸せそうだった。けれど稔が安子から離れた時、稔の弟で安子と同級生の勇(村上虹郎、24)が現れる。
 勇は安子に対し心ない言葉を口にした。

「兄さんはいずれ雉真の社長になる人じゃ。あんころ屋のオンナなんか、釣り合うもんか」(勇)

 稔は同市内に本社のある有力企業「雉真繊維」の跡取り息子だった。安子は打ちのめされ、身を引こうと考える。

 だが、のちに勇が安子のところに詫びに来て、稔が大阪に帰ることを伝える。安子は稔に教えてもらったばかりの自転車にヨタヨタと乗り、岡山駅に急ぐ。駅で会えた2人は文通することを約束する――。

 たった3話で出会いから親密化、別離の危機、関係の強化までが描かれた。なにより幸不幸の連続だった。

 稔から乗り方を教えてもらった自転車で稔のところへ急ぐのは藤本有紀さん(53)の脚本のうまさだ。
 観る側の目頭を熱くさせた大逆転の結婚劇も禍福の連続だった。

 第14話まで観る側は稔が銀行頭取の娘と政略結婚するものだと思っていた。

 稔の父で雉真繊維社長の千吉はそれが会社のためと考えていたし、稔の母・美都里にいたっては安子に向かって「2度と稔に会わないで」とののしっていたからだ。

 安子も訪ねてきた稔に別れを告げた。雉真家の反対を乗り切れるとは思わなかったのだろう。

 だが、千吉は稔の学徒出陣(20歳以上の文系学生の徴兵猶予廃止)の直前に心変わり。安子の気立ての良さを知ったこともあり、第15話で2人を結婚させる。

 生きて帰れるかどうか分からない息子を、ひとときでも幸せにしてやろうと考えた――。

「禍福はあざなえる縄のごとし」を織り込むのはドラマづくりにおいて黄金律の1つ。だが、ここまで大胆に取り入れ、なおかつ不自然さやあざとさを感じさせない作品は希少。

 独創的かつ作り込んだ作風で知られる藤本さんの脚本が冴え渡っている。
 役者陣もいい。上白石萌音が笑うと観る側までほほえみそうになる。一方で泣き顔は観ているのが辛い。悲しくなる。演技が自然だからだ。

 松村北斗は清潔感がある一方で凛々しい。企業の御曹司らしい気品と大学生らしい知性を感じさせる。

 戦前の大学進学率は5%以下で、大学生は超エリート。松村が演じる稔のような存在だったのだろうと思わせる。

 村上虹郎は相変わらず抜群にうまい。安子の存在が同級生、片思いの人、義姉と変化していく複雑な役どころだが、まったく違和感を抱かせない。

次ページ:印象的だった第3話のナレーション

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