投資額は2兆7700億円 江本孟紀が初めて明かす“女帝相場師・尾上縫”の素顔

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 店のテーブルには金融関係者がずらりと陣取り、奥の庭からは時折、どんな銘柄が上がるのか占うご託宣が聞こえる。2700億円をだまし取ったとして浪花の料亭経営者「尾上縫」が摘発されて30年、彼女がベタ惚れしたプロ野球解説者・江本孟紀氏(74)が振り返る。

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 内閣府のレポートには、かつて日本中を狂奔させたバブル経済は、1991年3月をもって“崩壊”が始まったとある。ちょうど30年前のことだが、人々に宴の終りを感じさせたのは、その5カ月後の出来事だったに違いない。

 同年8月13日の早朝、大阪地検特捜部は大阪・千日前の料亭「恵川」のおかみ・尾上縫(61)=当時=を有印私文書偽造などの容疑で逮捕する。東洋信用金庫に巨額の預金があるように見せかけ、それを担保に大手金融機関から2700億円もの金をだまし取っていたのだ。

 詐欺そのものは複雑ではなく、端緒は日本興業銀行が発行していたワリコー(割引金融債)を大量に買ったことだった。

 奈良の貧困家庭の出身だった尾上は、ミナミの料亭で仲居だった時、大手住宅メーカーの会長が“旦那”になり、恵川を開店。会長からもらった三十数億円を元手にワリコー10億円分を買い付ける。それを担保に興銀が融資し、さらにワリコーを買い増した。いつしかワリコーの額が膨れ上がると興銀の黒澤洋頭取が、夫婦連れで恵川を表敬訪問したこともあった。

 一介の料亭経営者ながら天下の興銀が融資している。それを知った他の大銀行も競うように金を貸し、5年間で彼女に貸し付けられた金は延べで2兆7736億円にものぼった。これは本州と四国を結ぶ瀬戸大橋を含む本四架橋の総工費に匹敵する。さらに尾上はこの金でNTTや新日鉄の株を買い漁ったものだから、北浜の証券界では「謎の女相場師」として名を馳せたのだ。だが、所詮は借金をぐるぐる回すだけの錬金術である。怪しんだ銀行が資金を引き揚げると、彼女が手を染めたのが架空預金証書による詐欺だったというわけである。

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