天気予報から気象の総合コンサルタントへ――長田 太(日本気象協会理事長)【佐藤優の頂上対決】

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気象のプラットフォーマーに

佐藤 これは一種の流通革命になりますね。

長田 その通りです。現在は製造、卸、小売りと、それぞれが分断されたサプライチェーンを構築しています。だから注文のミスマッチや食品ロスが生じる。POS(販売実績)データや売り上げなどのビッグデータを合わせて解析し、気象をハブ(拠点)に需要予測システムを作り上げていくと、最適なサプライチェーンが構築できると思います。

佐藤 一つ懸念があるのは、外国企業と取引する場合です。気象は社会全体に影響を及ぼしますから、経済安全保障の問題が出てきます。例えば、中国や北朝鮮、それらの国と密接な関係のある企業には注意が必要です。

長田 幸か不幸か、現時点ではそういう会社からはまだ話が来ていないですね。

佐藤 気象に大きく左右される農業分野はどうですか。

長田 最近、農水省とともに始めたところです。天気がよければ、一斉に大量の作物を収穫することになり値段が下がります。一方、天候が悪ければ、不作で値段は上がるものの、あまり農家の収入にはならない。でも気象状況を見ながら収穫時期や収穫量を調整すれば、廃棄も減るし価格も安定するんじゃないかということで、いまいろいろと研究しているところです。

佐藤 このサービスの売り上げはもうかなりあるのですか。

長田 コストを考えると赤字ですね。日本気象協会全体では150億円ほどの収入がありますが、まだその中の2億~3億円程度です。ただ伸び率はものすごい。今後は、製造や流通だけでなく、広告や金融といった分野でも可能性があると考えています。

佐藤 広告も天気も気分を作り出しますから、親和性があります。

長田 私どもの気象データとさまざまなデータを組み合わせれば、需要予測だけではなく、もっといろいろなことができます。

佐藤 そうすると、協会内に数多くのデータサイエンティストが必要になってきますね。

長田 はい。いま一所懸命に育てているところです。そもそも大本にある天気予報も、いろんなデータを組み合わせています。基本となるのは気象庁の衛星データですが、ヨーロッパやアメリカから気象データを提供してもらっていますし、また国内でも大学や自治体、あるいは国交省の河川局が持っている河川レーダーの情報なども集めています。

佐藤 それぞれ特徴がありそうです。

長田 ええ、例えばヨーロッパのデータは中長期の予測は優れているんですけれども、今日明日の予測なら気象庁の方がいいということがある。だからデータをどう組み合わせれば正確な予報になるかを考えています。

佐藤 データを扱ってきた素地がある。

長田 需要予測サービスでは、データの提供の仕方も工夫しなければなりません。天気予報なら気象データをそのまま相手に渡していればよかったのですが、需要予測となると、必要なデータだけ欲しいということになる。だからデータの処理の仕方、送り方、それからどんな端末に送るかとか、料金システムなども構築していかなければなりません。ですから、これまで以上にうまくデータを扱い、システムを構築していく人が必要になってきます。目指すは気象のデジタルプラットフォーマーです。

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