話題性十分だが名作にはならない「真犯人フラグ」 秋元康ドラマの功罪

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 各局がほしがる人気俳優を主演に据え、昭和の時代からキャリアを紡いだ寡作系の女優を呼び、無駄に大所帯のところを名脇役や手練(てだ)れでがっつり固める。パッとしないアイドルを紛れ込ませても、舞台は既にととのっているから安心。奇抜な設定、初回から次へと引っ張る驚きの吸引力、ネットでも話題性十分。秋元康ドラマは確かに凄い。

 凄いと思うが、たいていが大風呂敷を広げた割にどんどん吸引力が落ちて、最後は「は?」の疑問符で終わるので、心の中で「やり逃げドラマ」と呼んでいる。

 日テレ「あなたの番です」も、テレ朝「漂着者」もそうだった。テレ東「共演NG」は面白かったが、出演者の不祥事で微妙にトーンダウン。

 しかも今期は3作もある。TBSは女優発掘モノから派生した「この初恋はフィクションです」。オーディションを勝ち抜いた新人女優への褒賞+夜に帯ドラマという新しい試みのようだ。

 また、最近妙に不倫づいている(いい意味で)テレ東は「じゃない方の彼女」。濱田岳×不倫の新奇性で勝負。

 そして、今回のお題は日テレ「真犯人フラグ」である。

 テレビ局が集まる港区では、集客力のあるアキモトセンセイにすり寄らざるを得ない人々のため息と恨み節が聞こえる。江東区では別のアキモトセンセイから蜘蛛の子を散らすように離れていく人々の罵声と断末魔が聞こえる。耳を澄ます秋。

 ええと、ドラマに戻ろう。秋元康ドラマは世間も賛否両論のようだ。ちょっと功罪をまとめてみよう。え? フラグだの炊飯器だのはいいの? うん、いいよ。もう皆さんで推理を楽しんで。

 まず、設定や初回の仕掛けの奇抜さは称賛したい。警察・医者・弁護士の「公務員や国家資格の師士業」設定が多すぎる中で、芸能人の共演NGだの、全裸で漂着した謎の男だの、マンション内殺人当番制だの、家族失踪だのと、人の興味をひくのがとにかくうまい。

 そして、新たな試みも果敢に行う。2クールぶち抜きとか、夜に帯ドラマとか。ま、これはテレビ局の功績ね。定番の枠を変える勇気。

 さらに、原作モノが増えている中で、オリジナルを作ることができる強大な権力。珠玉の物語を描けるまっとうな脚本家が、テレビ局にことごとくダメ出しされ、泣かされたり歯ぎしりする中、たぶんアキモトセンセイは真逆。テレビ局を泣かせたり、平伏させることができる(妄想だけど)。

 でも、残念ながら名作とは決して呼ばれない。これだけ話題をかっさらっても、「人生のマイベストドラマ」にはなれない。奇抜な事件や騒動の描写でびっくりさせても、心の奥にズンと碇(いかり)を下ろすことはほぼない。

「これでいいのか、令和のドラマは」と思わないでもないが、結局日曜日のドラマだけ観ていればOK、という空気があるのは確かだ。

 私が好きなのは適材適所の役者陣。亀田運輸と週刊追求編集部の面々、二択を迫るデカや空気を一変させる猫おばさん、煽る専門のコメンテーター&火に油注ぐユーチューバーもいい。あの短い時間で役目を果たす。そこが見どころなのよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年11月4日号掲載

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