能役者が観客に殺された? 「狂言」に見る室町時代のリアルーー野村萬斎(狂言師)×清水克行(明治大学教授)

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人間の在り方を問う

野村 目が見えない人と、耳が聞こえない人にお留守番を頼む「不見不聞(みずきかず)」という曲があります。雇い主は慈善家みたいな人なんです。

清水 はい。二人が足りないところを補い合ってくれるだろうと期待して雇うわけですよね。

野村 しかし二人は助け合えばいいのに、お互いにプライドがあるんで、相手をおとしめ始めるという話です。今はやりづらいですけど、そこにあるのは「俺はあいつより優れている」という人間の優越感ですよね。障害があるとかないとかじゃなくて、人間の在り方。「かたわもの」というジャンルは、そういう問題提起としてとらえるのが今の在り方かなという気がします。

清水 我々、歴史研究者からすると、昔のままの形で残ってほしいという思いはあるんです。ぜひ伝承していってください。

野村 そうですね。さきほどの「川上」もですが、盲目の主人公や登場人物が出てくると、不思議と戯曲が非常に高度化するんですよね。目が見えないことに対する想像力を観客が働かせるということもあると思いますし、そうすると音に対する感度が増すとか、そういうことも含めてドラマチックになる一つの要因である気がしますね。

清水 萬斎さんはテレビドラマや映画にも多く出られてますよね。今度も「ドクターX」に出演されています。そうした経験が狂言を演じるときにフィードバックされることはあるんでしょうか。

野村 狂言は一家一門でやるので、息も合うし、アンサンブルとしては非常に緻密なものになるんですが、反面、どうやるかが大体わかる人たちになってしまうわけです。だからいろんな役者さんと相見(まみ)えて演技ができるのはとても勉強になります。心理を言葉に乗せるのが上手い役者さんもいれば、カメラ映えする動きができる役者さんもいる。

清水 なるほど。一方で時代劇などをご覧になってて、狂言の立場からもうちょっと手を加える余地があるんじゃないかと思うことはないんでしょうか。

野村 時代劇も一つのジャンルになってますし、時代考証のためにやっているわけではないですからね(笑)。面白いと思うのは、最近、時代劇が現代劇のようになってきて、現代劇が時代劇になってきてますよね。

清水 「半沢直樹」は「現代の時代劇」と言われましたよね(笑)。

野村 サラリーマンの世界が時代劇になってきているんです。「ドクターX」では、僕は言ってみれば悪代官役ですから(笑)。

清水 米倉涼子さんの敵役なんですよね。そちらも楽しみにしています。

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野村萬斎氏は「狂言ござる乃座 in KYOTO 16th~野村万作卒寿記念~」(京都観世会館、11月17日)、「第96回野村狂信座」(宝生能楽堂、12月2日・3日)に出演予定。詳しい公演情報はこちら(http://www.mansaku.co.jp/performance/index.html)。

野村萬斎(のむらまんさい)
狂言師。1966年東京生まれ。東京藝術大学卒。祖父・故六世野村万蔵および父・野村万作に師事。3歳で初舞台後、国内外で多数の狂言・能公演に参加、普及に貢献する一方、現代劇や映画・テレビドラマにも多数出演。2002年より世田谷パブリックシアター芸術監督を務める。

清水克行(しみずかつゆき)
明治大学教授。1971年東京生まれ。立教大学卒、早稲田大学大学院修了(博士)。戦国時代の民衆史を専門とする藤木久志氏に師事。高校講師などを経て、2014年より現職。歴史番組の解説や時代考証なども務めるほか、『室町は今日もハードボイルド』(新潮社刊)など著書多数。

週刊新潮 2021年11月4日号掲載

特別対談「究極の多様性? 『狂言』で再発見 おそろしや『室町時代』」より

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