ノーベル賞・真鍋博士の「日本に帰りたくない」発言の深意 アメリカの初任給は日本の26倍、研究環境に違いも

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給料は26倍

「発言を聞いて、当時の取材を思い出しました」

 とは、ジャーナリストの岸宣仁氏。岸氏は20年前、真鍋氏に長時間インタビューした経験を持つ。

「真鍋先生は大学院修了後、日本の気象台に就職しようとしましたが叶わず、誘われて米気象局に入りました。が、初任給は日本の26倍にもなったそうです。また、当時の上司が雑用を一切引き受け、先生たち若手を研究に専念させてくれたばかりか、10年近く大した論文を書けなくても、“良い研究をしている”と契約を更新してくれたというのです」

 こうして「長い目」で育てられた真鍋博士は、後にスーパーコンピューターを駆使して地球温暖化予測のモデルを開発。40年間で使った研究費は、実に150億円に上るという。

「その後の97年、先生は請われて、日本の海洋科学技術センターの領域長のポストに就きますが」

 と岸氏が続ける。

「わずか4年で退任した。ご自身は言葉を濁していましたが、周囲によれば、縦割り行政や悪平等な予算配分、相手の面子を潰さないよう批判を水際で止める研究風土に疑問を感じていた、と。“同じ人間がアメリカでできてなぜ日本でできないんでしょう”とおっしゃっていたのが印象的でした」

 こうした来し方を知れば、先の発言が出るのも頷ける。

 ノーベル生理学・医学賞受賞者の大村智博士も言う。

「私も両国で研究を行ってきましたが、やはりアメリカでは若い頃から自由に研究をやらせてもらえる風土がありました。先生は日本では好奇心に駆られた研究が少ないともおっしゃっていますが、これも同感です。このままでは基礎的な科学技術研究が停滞し、国力の低下に繋がってしまう」

 碩学(せきがく)の発言は、お祝いムードに酔う祖国に向けた、痛烈なメッセージとなった。

週刊新潮 2021年10月21日号掲載

ワイド特集「解散のカードを切る時」より

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