高市支持者は陰謀論の影響を受けやすい? メディアを悩ますフェイクニュースへの対応策

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人間の感情は伝染しやすい

 問題を整理しておこう。まず、なぜフェイクニュースが増えてしまったのか。インディアナ大学のフィリッポ・メンツァーらによる「SNSがしょうもない情報であふれるメカニズム」(『日経サイエンス』2021年8月号)という論考がある。そこで指摘されているのは、情報過多が質の高い情報の信頼性を損ねるという明確なエビデンスだ。

 彼らはシミュレーションによる研究結果を踏まえて、「人々が高品質の情報を得てシェアしたいと思っていても、ニュース配信すべてに目を通すことができないために、部分的あるいは完全に間違った情報のシェアに必然的につながってしまうことが明らかになった」と指摘する。彼らは同じレポートのなかでTwitter利用者は、政治的な立場にかかわらず信頼性の低いニュースを繰り返し投稿するサイトを共有する傾向があるというデータも紹介している。

 メンツァーらに限らず、人間の認知をめぐる心理学の研究や社会科学の分野から出ている研究を読んでいると、人は見たいものを見て、共通点のある人とつながりたがり、SNSでの繋がりを含む周囲の人たちからでも人間の感情は伝染しやすいことがわかる(たとえば笹原和俊『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』)。多くの人々は、明確な間違いを指摘されても、自分の世界観に合わなければ、自らの世界観にさらに固執するというバイアスまで持ち合わせている。

メディアを疑い、鵜呑みにしない人々

「正しい知識」を伝えたとしても、問題解決は決して簡単なことではない。政治学者の秦正樹(京都府立大学准教授)が実証的に示したように(『中央公論』2021年5月号「『正しい知識』が陰謀論を助長する」)、政治について知識のある人々のほうが陰謀論――より正確にはインターネット上の右派的な陰謀論――の影響を受けやすいからだ。

 ニュースの世界に身を置いていると、こうした学術的な知見は感覚的によくわかる。「マスゴミ」と揶揄する人々も、「この報道には政府の意図がある」などと得意気にツイートする人々も政治について無知なのではなく、かなり豊富な知識を持ってメディアを批判的に読み解いているのだ。彼らはメディアを疑い、鵜呑みにしないからこそ、証拠の有無に関係なく、報道の裏にある「何か」を察知した気分に浸ることができる。

 これまで見てきたように、陰謀論や荒唐無稽な主張に対するファクトチェックには限界がある。事実を用いて強固な陰謀論者の説得や考え方の転換を目標にする限り、それが達成されることはない。意味があるとすれば、強固な人々は無理でも、はるかに多く社会にいる中間層には届く可能性に期待することだ。こうした人々のために検証した記事をインターネットに残しておく必要があるとは言えるだろう。

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