「謎の品物を売る店」から考える居酒屋で酒が出せない不合理(中川淳一郎)

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 なんでこの店でこんなもんを売ってるのだ?と思う経験をしました。近所の婦人服店では、なぜかミカンを売っているんですよ。一瞬びっくりしたものの、知り合いや親戚がミカン農家なのでしょう。

 しかし、謎だったのが、ホットドッグ等を出すカウンターのカフェで婦人服を売っていたことです。この店を訪れた知人によると、メインは服で「洋服を買いに来た人が一息つくんだって」とのことです。確かに洋服を買った後、馴染みの店員と談笑しながらコーヒーを飲んでホットドッグを食べるのは楽しいですね。

 こうした「謎の品物を売る」件で私が過去にもっとも目から鱗だったのは「精肉店でポテトサラダを売っている」件です。以前、雑誌でポテトサラダ特集を組んだのですが、ポテトサラダが評判の精肉店の店主を取材しました。実際に食べ、そして撮影後に店主に「なんでお肉屋さんでポテトサラダ売ってるんですか? 肉と関係ないじゃないですか?」と聞いたのですが、こんな会話になりました。

「(勝ち誇った顔で)キミィ、肉屋のメイン商品は何だい?」

「お肉です。牛・豚・鶏です」

「商売を拡大するにあたり、そして食品ロスを防ぐために我々が何をやってるか分かる?」

「お総菜とか、お弁当とか、あとはカレールーや焼肉のタレの販売ですよね」

「そう、総菜。豚肉はトンカツにして、牛ミンチはメンチカツに、鶏肉は唐揚げにする。そしてさ、どうせ揚げるんだから、とアジフライやイカフライも売るようになった。肉屋の総菜の定番ってコロッケだよね。コロッケって何で作るか分かる?」

「ジャガイモとひき肉ですね」

「そこ! コロッケを作る時はジャガイモを大量に茹でてマッシュにするんだけど、これが大変なんだよ。せっかくだったらこのイモを有効活用しようと思って閃いたのがポテサラなんだ。せいぜいキュウリとニンジンを追加するだけだし、ハムはもうあるからね。串カツ用のタマネギもあるしさ」

 これには「なるほど!」と言ってしまいましたが、世の中の不思議な事象には合理的な理由があることが多いです。

 そこで「緊急事態宣言」と「アルコール販売禁止」ですよ。居酒屋や焼き鳥屋は、儲けの多いアルコール類をバンバン飲んでもらうため、酒に合うつまみを提供しているわけです。うめぇ、ぷはーっ! 焼き鳥うめぇ! ビールもう一杯! ってな話になるわけですね。

 しかし、緊急事態宣言下では酒が出ない。一応店はやっているものの、焼き鳥食べながら氷が完全に溶けたウーロン茶をジルジルと少しずつ飲み、では気勢が上がらない。店の売り上げも激減。

 なんなんですかね、コレ。冒頭で挙げた洋品店がミカンを売らなくなったとしてもメイン商品は洋服なわけで打撃はない。ただ、居酒屋で酒を出せないというのは、精肉店に対して「生ものは危険なので、生肉は売ってはいけません」なんて保健所から命令して単なる揚げ物屋にするようなもの。

 そういえばレバ刺し、なくなってから9年経ちますね……。なんでお上ってこんなに規制したがるのか。私は他人に規制を加える仕事なんてしたくありません。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2021年10月7日号掲載

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