理論物理学者・橋本幸士の「一生の相棒」とは 10年ほど使い続けた一本のシャーペンの思い出

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「理論物理は紙とペンの世界」

『物理学者のすごい思考法』などの著書があり、京都大学大学院理学研究科の教授でもある、橋本幸士さん。物理学者が「わたしの相棒」の定義を考えるとき、それにあてはまるのは……。

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 僕のこれまでの人生で、体にもっとも長い時間接触していた同一のものを相棒と定義することにすると、僕の相棒はペンである。

 いや、その定義での相棒はパンツなのではないか? 靴なのではないか?といった反論が出よう。違う。パンツは穿き替えるし、靴は1年ほどでダメになってしまう。いろいろなアイテムの時間評価をしても、結果はやはりペンなのだ。ペンにぎりぎり対抗できたのは、眼鏡だった。しかし、勝者はペンである。

 僕は科学者だ。科学者にも、ペンを長い時間持つ科学者と、そうでない科学者がある。前者は理論物理学者などの「理論屋」で、後者は実験を行う「実験屋」だ。物理学においては、理論と実験の分業が戦後ごろに明確になり、今では理論と実験が両輪となって科学が進んでいる。そして僕は理論屋、理論物理学者である。

 理論物理学者は、実験屋が発見した物理現象などをデータとして解析し、その現象の背後にある法則を推測し仮説を立て、その仮説から導かれる新奇現象を予言する。この予言を元に実験屋が実験を行い、もし仮説が実験で検証されれば、新しい物理法則の発見、確証となる。

 この科学の標準的プロセスにおいて、データの解析や法則の推測、新奇現象の予言、といった部分はすべて数式による計算だ。つまりペンを用いて全ての作業が行われる。「理論物理は紙とペンの世界」と呼ばれる所以だ。

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