金メダル・稲葉監督が明かす「キャプテンを置かなかった理由」 若い世代をマネジメントする術とは

スポーツ 野球

  • ブックマーク

Advertisement

「最近の若い者は」。部下を束ねる上司の愚痴の定番だが、嘆いてばかりでは組織は動かない。東京五輪で金メダルを獲得した野球日本代表監督の稲葉篤紀(あつのり)氏(49)。彼は「若き侍たち」をどう鼓舞し、まとめ上げたのか。単独インタビューで明かした組織マネジメント術。

 ***

 時代の流れの中で人々の価値観は変わっていきます。

 戦後間もない頃、私が現役の選手だった時代、そして今の若い子たちとでは、当然それぞれ価値観が違います。今回の東京五輪野球日本代表も、最年少選手が21歳と若いチームでした。彼らの価値観を知ることが、監督として「侍ジャパン」という組織をマネジメントし、チームをまとめる上で、ひとつの大きなポイントだったと思います。

 では、今の若い子たちの価値観とは何なのか――。

〈賛否両論が渦巻くなか、また厳しいコロナ対策を強いられながら開催された東京五輪で、野球日本代表は金メダルを獲得した。その侍ジャパンを率いたのが稲葉監督である。

 チームを世界の頂点へと導いた監督、すなわち「世界一の監督」。12球団の選手たちが集う侍ジャパンを見事にまとめあげたマネジメント術は、日頃、さまざまな人間関係の狭間(はざま)で組織運営に悩んでいる経営者や管理職にとどまらず、全ての組織人の関心事といえるかもしれない。

 世界一の監督・稲葉氏は、いかにして組織を結束させたのか。まずは、金メダルへの道程を振り返ってもらう。〉

「アウト一つ取るのがこんなにも苦しいのか」

 決勝のアメリカ戦(8月7日)6回表2アウト一、二塁。3回裏に我々が先制していたもののリードはわずか1点。アメリカに同点に追いつかれる、あるいは逆転されるかもしれない……。試合の勝敗を左右しかねない、非常に緊迫したシーンでした。

 試合のポイントとなる大事な場面で、四死球でふたつの塁を埋めてしまった千賀滉大(こうだい)が、渾身の投球でどうにかアメリカの打者にファウルフライを打ち上げさせた。その時でした。キャッチャーの(甲斐)拓也がボールを追いかけ、膝を折るようにして大事に両手でキャッチ。そして捕球後、安堵の表情を湛えつつ、まるでグラウンドの神様に感謝するかのように、キャッチャーミットでポンッとグラウンドを叩いたんです。

 あんなに大事そうにキャッチャーフライを捕る拓也を見たことがありません。そんな拓也の姿を見て、ピンチをしのげて良かったという思いと同時に、「何か」感じるものがありました。アウトひとつ取るのが、こんなにも苦しいものなのかと。本当に「苦しいアウト」でした。

 私が選手として参加した2008年の北京五輪の準決勝・韓国戦でのこと。韓国の選手にライトフライを捕られ日本の敗退が決まった瞬間が、私の脳裏から離れることはありませんでした。それこそ、拓也と同じように、韓国の外野手はとても大事そうにフライをキャッチしていた。そこにこもっていた気迫と執念。それに我々は負けてしまったのだと。

 この悔しさを胸に今回の東京五輪に挑んだわけですが、拓也の捕球シーンを見て、北京五輪で失った「何か」を取り戻すことができたように感じています。

次ページ:流れが悪い時に…

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[1/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。