10代で人工肛門になり最新医学で機能を取り戻した医師 大腸がんを早期発見する「観便」を啓蒙

ドクター新潮 医療 がん

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 安倍前首相の持病として知られる「潰瘍性大腸炎」。この難病を10代で発症して人工肛門になった青年は、最新医学で自前の機能を取り戻す。それをきっかけに一念発起、医師となった。取り組むのは、大腸がん等を早期発見できる「観便」習慣の啓蒙だ。

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 そのアプリケーションを開くと、かわいらしい女の子のキャラが現れて、こちらに話しかけてくる。

「今日の便の状態を教えて下さい」

 次に質問される。

「色を選択して下さい」

 黄土色、茶色、こげ茶色、黒色、赤色、緑色、灰白色の7択だ。

「形を選択して下さい」

 女子キャラがさらに質問する。水様状、泥状、はんねり状、バナナ状など7択。

 これは、日本うんこ学会のスマートフォン用ゲームアプリ“うんコレ”。ダウンロード無料のアプリケーションで、現在約2万5千人がゲームを楽しんでいる。スマホ用ゲームは課金制のものが多い。しかしうんコレは、課金せずとも、その日のうんちの状態の報告でもゲームを楽しめる。

「うんこで救える命がある。」日本うんこ学会のキャッチフレーズだ。“観便”――すなわち毎日のうんちの状態をチェックして、大腸がんをはじめ、さまざまな病気を早期発見する目的でうんコレも開発された。

 うんコレの開発には日本うんこ学会会長の石井洋介さん(41)が口コミで協力を求め、デジタルに強い50人ほどがかかわった。日本うんこ学会の会員は約500人。ホームページで会員を募集しているが、健康を意識する人、うんちに興味を持つ人、ゲームが好きな人ならば入会できる。開発も運営もスタッフは全員ボランティアだ。

「自治体と協力して健康講座や講演会を行うと、人は集まってくれますが、ほとんどは健康への意識が高い人たちです。定期的に健康診断を受けていて、観便もしている。健康に無頓着な層にも観便の習慣を身につけてほしくて、うんコレを作りました」

 そう話すのは石井さんだ。

「大腸がんは“サイレントキラー”といわれ、かなり進行しないと、自覚症状がありません。いつのまにか悪化し、放置すると手遅れになってしまう。でも観便を習慣化していれば、うんちの変化で早期に見つける可能性が高まります」

 石井さんは消化器内科の医師で、東京・目黒区の診療所を拠点に在宅医療に携わっている。

 石井さんがうんちによる病気の早期発見にエネルギーを注ぐのには理由がある。石井さんは長い患者体験を持つのだ。10代で潰瘍性大腸炎を発症。人工肛門の生活を経験した。今も大腸は取り除かれたままだ。

 石井さんが最初に身体の異変に気づいたのは15歳。中学3年生で受験を控えた年だった。ある日、うんちに血液が混ざっていた。

「痔だと思いました。1日に8時間くらい座って勉強をしていたからです」

 高校に入っても、改善されず悪くなっていった。

「やがて、発熱しました。38~39度の高熱で、解熱剤も効かず、学校に行かれず、1学期の期末テストは受けられないほどでした」

 大きな病院を紹介され、入院生活が始まる。

「マイコプラズマ肺炎だろう、と総合病院で言われました。4年に1度、ちょうどオリンピックと同じ周期で流行するので“オリンピック肺炎”ともいわれています。症状は日に日に悪化し、高熱、下痢、嘔吐にしばらく苦しみました」

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