パワハラ指導はスポーツにとって「必要悪」なのか 苛烈な指導で金メダルを獲得した新体操選手・リタ(小林信也)

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 東京五輪、女子バスケットボール日本代表の決勝進出は痛快だった。平均身長の低い日本が独自のスタイルで旋風を巻き起こした。

 だが、記者会見で選手たちの言葉を聞いて、私は複雑な思いにかられた。

「とにかく練習量は世界一です。こんな激しい練習を重ねた国は他にないでしょう。ホーバス監督の指導は、しつこいし、厳しいです」

 結局、スポーツで結果を残すには、猛練習は欠かせないのだ。自転車のオムニアムで銀メダルを獲った梶原悠未選手も言った。

「毎日、吐くくらい練習しました」

 日本ではパワハラ騒動をきっかけに高圧的指導が見直されている。世界の趨勢はどうなのか? それを教えてくれるのが2016年リオ五輪の新体操で女王に輝いたマルガリータ・マムーン(ロシア)の物語だ。

 マルガリータ、愛称リタは1995年にモスクワで生まれた。父はバングラデシュ人、母はロシア人。7歳から新体操を始め、11年にロシア選手権で初優勝。13年から世界選手権で3大会連続優勝。リオ五輪ではロシアの期待を担った。

 そのリタのリオ五輪までの舞台裏を克明に記録したドキュメンタリー映画がある。「オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡」。

 映画は、世界選手権の会場に向かうリタの後ろ姿から始まる。リタの近くには2人の女性がいる。コーチのアミーナ・ザリポアとロシア新体操界の「女帝」イリーナ・ヴィネル(現ロシア新体操連盟会長)。イリーナはバルスコワ、カバエワ、カナエワらの金メダリストを育てた実績の持ち主。夫はロシア有数の大富豪だ。

 大会で同僚のヤナ・クドリャフツェワに敗れ2位に終わったリタに、女帝は容赦ない罵声を浴びせる。

「なぜあんなにブレたの?」

「ブレてない」、言葉を返すリタを女帝が一喝する。

「お黙り! ブレたくせに! 役立たず! 無能ね。綺麗な目で点を獲っただけ。闘えないなら不要よ。闘士じゃないなら消えてほしい」

 脇でコーチが弁護するが、女帝はおさまらない。

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