「皇族に婚姻の自由はあるのか」リベラル化する君主制を考える――君塚直隆(関東学院大学教授)【佐藤優の頂上対決】
いま王室が残っている国は、わが国も含め28カ国。イギリス国王を戴く英連邦を加えれば43カ国である。そのイギリスを筆頭に欧州の王室はリベラル化が進んでおり、婚姻の自由を謳歌する王子や、多文化共生やLGBTなどの問題に取り組む君主もいる。現代における君主の意義と役割を考える。
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佐藤 君塚先生はイギリス政治外交史がご専門ですが、世界各国でいまも続く君主制の研究でも知られています。2018年にサントリー学芸賞を受賞された『立憲君主制の現在』(新潮選書)は、日本の皇室を考える上でも格好のテキストです。
君塚 君主制というと、時代遅れの制度のように思われるかもしれません。しかし現代の立憲君主制は民主主義を補完する仕組みとなっているのです。多数決による民主主義は、時として国民の対立を引き起こすことがありますが、権威たる王室は国民統合の象徴となって、深刻な分断を防ぐ機能があります。
佐藤 そうですね。まさに日本の皇室もそうした役割を担っているところがある。
君塚 また選挙で選ばれる政治家とは違って任期や辞任がありませんから、外交などで連続性が生まれます。父から子、子から孫へと、いっそう関係が深化していくのが君主制です。
佐藤 ご著作では「君主制は感情に訴え、共和制は理性に訴える」という分析を紹介しておられましたね。
君塚 イギリスのジャーナリストで思想家のウォルター・バジョットの指摘です。
佐藤 私はこれを読んで、レーニンを思い出しました。レーニンが『何をなすべきか』で、宣伝と扇動を区別するんですね。宣伝、プロパガンダは為政者に対して理性的に紙面で行い、扇動は大衆に声で感情に訴えかける。この二つをうまく使い分けることが、共産党が権力を掌握する鍵だと言っている。それを国家として考えれば、理性としての共和制と感情の君主制になり、君主制が共和制の基礎にある民主主義を補完するのはよくわかります。
君塚 なるほど、レーニンも同じことを考えている。
佐藤 いまも王室は世界にかなりの数が残っていますね。
君塚 国連加盟国のうち28カ国、イギリス国王を戴く英連邦を加えると、43の国が君主制です。イギリスを始め、スペインやベネルクス3国、北欧諸国など、ヨーロッパの主要な国々でわりと残っています。
佐藤 もっとも20世紀になってから、相当に減りました。
君塚 第1次世界大戦前、共和制の国はフランス、スイス、ポルトガルにアメリカ以南のラテンアメリカ諸国くらいで、世界の国々の半分以上は帝国や王国の植民地でした。それが2度の世界大戦で逆転します。そして1950年代からは、中東やアジアの国々で次々と君主制が消えていきました。
佐藤 私が外務省に入った1985年頃は、アジアの君主制はもう国民に広く受け入れられ、行く着くところまできているから倒れることはない、という認識が共有されていました。それが王族内での殺害事件をきっかけにネパールでは2008年に王政が倒れ、そしていま、タイの王室が揺れています。
君塚 タイでは史上初めてとなる王室改革のデモが起きました。非常に危険な状態ですね。
佐藤 タイには不敬罪もありますし、そもそも王室の力が非常に強かった。それなのに予断を許さない状況にある。現代ではどんな時に君主制が崩れるのでしょうか。
君塚 かつてはエジプトなど、軍部のクーデターで打倒されるケースが多かったのですが、いまは国民の支持がなければ、あっけなく崩れてしまう可能性があります。その傾向はどんどん強まっている。
佐藤 国民の力なのですね。
君塚 君主自身がクローズアップされ、その資質や徳が問われるようになっている。しかもSNSなどによって、国民から直接評価を下されるような状況が生まれています。
佐藤 キリスト教神学に、事効説と人効説という考え方があります。事効説は、儀式や事柄に効力があると考える。だから腐敗した司祭が行った儀式でも、その儀式には効果がある。一方、人効説は腐敗した者が行ったものは効力がないとする。どの教会でも正統派は事効説を取りますが、あまりにひどい司祭がいると、必ず人効説が出てきます。
君塚 まさに1517年のルターの宗教改革ではそれが問われていましたね。ヘンリー8世がイングランド国教会を作った時も、離婚問題が契機になってはいますが、ローマ教皇庁の腐敗が大きな問題としてあった。
佐藤 ヘンリー8世は、実は信仰について真面目な人でしたよね。中学高校の歴史では、カトリックは離婚を認めないので国教会を作ったという女癖の悪い王様みたいに描かれていますが、真剣に信仰に向き合ったからこそ、ローマ教皇庁からの離脱という決断になったのだと思います。
君塚 まったく同感です。
佐藤 君主制は基本的に事効説で成り立っているシステムですが、国民が君主の動向に関するさまざまな情報を得られるようになると、人効説的な面が強まってくる。
君塚 やはりSNSなどの新しいメディアの影響力が大きい。だから国民の支持をどう取りつけるか、それが大きな課題になってきます。
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